25

「決して強いわけじゃないのに前に進もうと努力しているところが好きだ」
 
 手は繋いだまま、木に背中を預けたディルックがぽつりぽつりと話し出す。何の事?と聞く程鈍感でもない私は下唇を噛んで俯くしかない。肝心な事を伝えて吹っ切れた様子のディルックはもう顔を赤くする事はなく、照れ臭くなるような事を話し続けていく。それに反してまだ慣れない私は顔が熱くて仕方がない。神の目の力を使って水でも浴びたい気分だ。
 
「笑った顔が…」
 
「も、もういいよ!」
 
 あまりの恥ずかしさにディルックの口を両手で塞ぐ。驚いたように見開かれたディルックの瞳が私をじっと見たかと思えば細められる。
 
「嬉しいんだ。まさか君も僕の事を好きだと思ってくれていたなんて」
 
「…私、結構バレバレだと思っていたんだけど…」
 
 ディルックが首を傾げる。どうやらディルックはこの手の事には鈍感らしい。(私が言えた事ではないけれど…)
 私だって、嬉しいよ。まさかディルックと両想いになれるなんて。そう言えたら良かったけれど、嬉しさや恥ずかしさが入り混じった感情で頭がふわふわして、何も言えない。こういう自分も、徐々に理解していってもらえるのだろうか。いや、ディルックならきっと理解してくれるだろう。どこからか現れ、ふよふよと私達の周りを飛び回る晶蝶を眺めるディルックの横顔を見つめる。
 私はきっと、自分がこの気持ちを自覚する前からディルックの事が好きだったのだろう。でもこうして想いを伝えた今、前よりもうんと彼が愛しくて仕方ない。整った横顔を見ていると心臓が甘く痛む。すると、ディルックは私の視線に気付いたのか、ゆっくりこちらを見て、笑顔を浮かべ小首を傾げた。恥ずかしくなって慌てて瞳を逸らすと、ディルックの手が伸びてきて私の頬をするりと撫でる。驚いて身構えると、ディルックはごめんと言って離れてしまうかなと思ったのに、まるで逃がさないとでもいうかのように私の腰を抱いた。
 
「…目を閉じて」
 
 低く囁かれたその声に大人しく従う。ぎゅっと目を閉じると、近くにあるディルックがふっと笑ったような気がした。ディルックの息が唇にかかる。私の腰を抱くその手に力が入ったと同時に、私の唇に、熱いディルックの唇が触れた。
 初めてした…これがキス?ゆっくり瞳を開けてみると、目を閉じたディルックの顔が目の前にある。心臓が馬鹿みたいに騒ぎ出す。ドキドキしすぎて死んじゃいそう。もう、色々限界かも…とディルックの腕をそっと掴むと、何を勘違いしたのか、一度離れた唇をディルックはもう一度私の唇へと押し当てた。もう一回されるなんて思っていなかったから、頭がパンクしそうになる。ちゅっちゅっと、何度も唇が触れ合う。ただぎゅっと瞳も唇も閉じてされるがままで居ると、やっと唇が離れて、暫くするとディルックがくすりと笑った。
 
「林檎みたいに真っ赤だよ」
 
「…誰のせいだと思ってるの」
 
 私の顔を見て笑うディルックは、決して私を馬鹿にしているわけではない。その瞳はやはり愛おしいものを見るかのような優しさが滲んでいる。もう一度近付いてきたディルックの顔に「ちょっと待って!」と言って彼と自分の顔の間に手を挟む。不服そうな顔をするディルックから少しだけ離れて心臓に手を当てる。
 
「……これ以上したら、死んじゃうかも…」
 
 私がそう言うと、きょとんとした顔をしていたディルックが、堰を切ったかのように笑い出す。いっぱいいっぱいの私と違って、ディルックは余裕そうだから少し悔しい。じろりと彼を睨むが、よく見たらディルックも耳が真っ赤だった。
 
「要練習だね」
 
 私の頬に手を伸ばすと、ディルックがくしゃりと笑う。こんな事を繰り返し行なっている世間の恋人達は本当にすごい。いつまで経っても慣れる気がしないけれど、笑顔を浮かべるディルックの視線に応えるかのように私は首を縦に振った。
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