全てをディルックに話した。
ローレンス家の血が流れているという事、両親が死んだ理由、エウルアの従姉妹にあたるという事。
ディルックはたまに言葉に詰まる私を急かす事なく相槌を挟みながら真剣な眼差しで最後まで話を聞いてくれた。話し終わると、まるで自分の一部を失ったかのような悲しさと、ずっと心に刺さっていた棘が取れたかのような解放感があった。
言ってしまった。もう戻れない。下唇を噛んでディルックの言葉を待つ。どんな言葉でも受け入れる覚悟はある。ディルックを信じている。それでも、やっぱり怖い。小さくディルックが息を吐く音がして、思わず目をぎゅっと閉じた。
「…まず、話してくれてありがとう」
ディルックの顔が見れない。落ち着いた声色、感情を読み取る事ができない。
カタカタと手が震える。すると、強い力で握りしめて真っ白になっていた私の手に、大きな手が重なる。まるで、両親の事を話したあの夜と同じような光景だ。恐る恐るディルックの顔を見ると、ディルックは眉を下げて微笑んでいた。よく頑張ったと言われたような気がして、目頭が熱くなる。また「泣いてばかりだね」と言われてしまう。涙が零れ落ちないように慌てて上を向くと、ディルックの腕が伸びてきて、私の体を包み込む。ふわり、とまるで壊れ物でも扱うかのように優しく抱き締められて、体が、心が、あたたかくなる。
「旧貴族の血が流れていようが、ティアはティアだ。僕は君の事を軽蔑したりなどしないよ」
その言葉を聞いた途端、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
ずっと、ずっと、欲しかった言葉。
凍りついていた心が溶けていくかのように、胸にあたたかいものが広がっていく。
ずっと言えなくて、ずっと抱え込んでいた。これから先も誰にも話せず、誰にも理解されないのだろうと思っていた。嬉しい、とても嬉しい。まるで壊れたみたいに涙が止まらない。
ディルックの背に腕を回して、彼の肩口に顔を埋める。涙が次から次へ溢れてきて、ディルックの服を汚す。けれどそんな事など気にしないとでも言うかのようにディルックは私の頭をぐっと引き寄せて、頭をゆっくり撫でてくれる。
やっと、出会えたような気がした。こんな私を無条件に受け入れてくれる人。優しい人、素敵な人。
そっと目を閉じると、涙がポロポロと頬を滑り落ちていく。ふと、両親の顔が浮かんだ。死に顔では無くて、生前の、笑顔に満ちていたあの頃。ゆっくり瞳を開けて、テーブルにある写真立てを見た。
?良かったね?
二人がそう言ってくれているような気がした。