被り物をしていないセノの髪の毛はサラサラだね。なんて言って、その髪に無防備に手を伸ばしていた数秒前の私に告ぐ。「寝るぞ」と静かに言われた直後にそんな事をするのは所謂誘惑とも取れてしまうようだから気を付けて、と。手に取っていた銀色のサラサラの髪の毛は今じゃカーテンのように私の頬を緩く叩いている。光を吸い込むと夕焼けみたいに綺麗なその瞳には影が掛かっていて、いつもとは違うその色とあまりの鋭さに、まるで捕食される寸前の草食動物にでもなったような気分だ。

「……俺は寝るぞ、と言った」

「…………はい」

「それを阻止したのはお前だ」

「……はい」

「……良いのか?」

 そう問われると正直狼狽えてしまう。同じベッドで寝るという時点でそういう事をするかもしれないという意識はあった。けど、今日じゃないかもしれないという甘い考えもあったのも事実だ。そもそもセノはあまりそういう事をしたいって思わなかったりして、とも考えた事もある。中途半端な思いを抱えた私はうんと言うべきか、いいえと言うべきか、真っ直ぐ私の目を見るセノを見つめ返しながらぐるぐると考えていると、先に折れたのはセノの方で、セノは脱力したみたいに私の横にごろりと横になった。

「セノ?」

「悪かったな。……早まった」

 何も言わない私に、セノは拒否されたと思ったのだろう。反省するかのように細く息を吐き出すと、眉を下げて少しだけ微笑んだ。
 そんなセノの顔を見た途端、軽率に髪に触れて、そして何も言わずセノにこんな顔をさせてしまった自分が一気に情けなくなる。セノだって男だ。恋人である私と同じベッドで、こんなにも近くで共に居たらそれはそういう気分になるに決まってる。甘い考えだったと先程までの自分を心の中で叱責する。えいや!と寝返りを打ってセノの腕に体ごと密着すると、触れた途端、セノの体が大きく跳ねた。

「……おい」

「わ、分かってるよ!……分かって、やってるの……」

 セノの腕にゆるゆると手を回してみる。まるで氷元素が付着したみたいに体を強張らせていたセノだが、私の言葉を聞くと、私と密着していない方の腕を伸ばして、私の頬をそっと撫でた。

「……これは、良いって事だと解釈するぞ」

「…その解釈で合ってます」

 ギシッとベッドが軋む音がして、顔に影が掛かる。さっきと同じように、セノの銀色の髪が私の顔にふわりと触れて、鋭い瞳には熱が宿っているようだった。

「待て、はさっきの一度きりだ。分かったな?」

 頷くと同時に、セノの顔が近付いてくる。ベッドに縫い付けられた自分の両手に重なるセノの手はとても熱くて、ああもう逃げられない、と悟った。
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