降り注ぐキスを受け入れながら、いつもとは違う男の顔を見せるタルタリヤを見て、指先が冷えている事に気が付いた。タルタリヤとは長い付き合いで、この前やっとお互いの気持ちを吐露し、晴れて恋人へと関係が昇格したのだが、まだ見たことのない彼の一面をこれから見る事になるんだと思うと緊張してしまうのは仕方ない事だと思う。それを誤魔化すかのようにタルタリヤのシャツをくしゃりと掴むと、私の手の上に大きな彼の手が重なる。ひんやりと冷えてしまった私の手に触れるや否やタルタリヤはガバッと私の顔を覗き込んだ。
「寒いの?」
「……ううん、大丈夫」
緊張していると伝えるのはなんだか恥ずかしくてのみこんだ。でもそんな私の強がりなんてお見通しのようで、タルタリヤは私の指先を持ち上げると、そこに軽くキスをした。まるで王子様のようなその所作に胸がきゅんと疼く。私の瞳をジッと見ると、タルタリヤはへらりと笑って、私の体を包み込んだ。
「大丈夫。全部俺に任せて?」
不安を拭うかのようにタルタリヤが私の背を摩る。その手から伝わる温度にガチガチに緊張していた体が解れていく。ふーっと小さく息を吐いてタルタリヤの肩に頭を乗せると、タルタリヤは慣れた手つきで私の頭をゆっくりと撫でてくれた。
「……タルタリヤは緊張しないタイプの人だから羨ましいよ」
「俺が?失礼だな。俺だって緊張する時くらいあるさ」
「どんな時?」
「そうだな……強者と一戦交える時とか?」
「……それ本当に緊張するの?」
タルタリヤは首を捻ったかと思うとすぐにパッと顔を上げて「しないかも」と言って笑った。どうせそんな事だろうと思った。タルタリヤが緊張している時なんて見た事ないもの。つられて私も笑うと、タルタリヤはそんな私を見て目を細めた。
「やっといつものナマエの顔になった」
「……そんなに変な顔してた?」
タルタリヤの手が背中に回ったかと思えば、ゆっくり体が後ろに倒れていく。ベッドに体が沈むと同時に、タルタリヤの顔が近付いてきて、私の頬や額、そして唇にキスを落としていく。
「変な顔なんてしてないよ」
「……そう?」
「君はいつだって可愛い」
不意打ちでそんな事を言われて、顔が一気に熱くなる。そんな私を見てタルタリヤはしてやったりといった風に微笑んだ。何だか悔しくてタルタリヤの頬を指でつつくと、タルタリヤは私の手を取って、自分の胸へと当てた。
「ほら、俺だってドキドキしてる」
「……ほんとだ」
緊張しないって、言ってたのに。伝わってくる心音は大きくて、速い。新たなタルタリヤの一面に嬉しくなって自分から彼の頬にちゅっとキスをすると、タルタリヤは一瞬固まって、そしてまるで大型犬のように私へと飛び付いた。
「わあ!ナマエからキスされたの初めてだよ!」
「そ、そうだっけ?」
すっとぼけてみたけれど、そんな事をいちいち覚えているタルタリヤが可愛くて仕方がない。お互い顔を見合わせて笑うと、どちらかともなく唇が重なり合う。吐息の混ざった深いキスと、いつの間にか男の顔になっていたタルタリヤにシーツをぎゅっと握った。その上から彼の手が重なる。
もう指先は、冷たくない。