「…待って」
「聞き飽きたが」
まるでシーツに縫い付けられたかのように動かない両手を何とか動かして抵抗を試みるが、私の両腕を押さえ付けるアルハイゼンの手はびくともしない。それもそうだ。服の上からでも鍛え抜かれている事が分かるのに、今のアルハイゼンは上半身に衣服を身に纏っていない。剥き出しになったアルハイゼンの白いけれど程良く筋肉の付いた二の腕は今の私には毒だ。かーっと熱くなる顔を隠したいのに、やっぱり、両手はびくともしなかった。
「もう良いだろう」
「良くない!見たら分かるでしょ!」
アルハイゼンの裸(上半身)を見ただけでこのザマだというのに、これ以上の事をしようものならゆでだこのようになってしまう。必死にアルハイゼンから顔を背けていると、頭上にあるアルハイゼンががくり、といった様子で項垂れた。私の首元に顔を埋めたアルハイゼンは動かないし、何も言わない。毎夜毎夜こんな風に先に進む事ができないのは申し訳ないと思ってはいるが、いくら覚悟をしたところでいざとなると恥ずかしさと緊張でどうにかなってしまいそうになる。今夜もまたアルハイゼンの優しさに甘える事になりそうだ。ごめんね、という意味を込め、いつの間にかゆるくなっていた両手の拘束を解いてアルハイゼンの頭をゆっくり撫でると、首に何かがぬるりと触れた。
「ひぃっ!」
「…もう少し色気のある声を出すかと思ったんだが」
目を見開いてアルハイゼンを見ると、アルハイゼンは唇からチラリと舌を見せて笑っていた。もしかして、さっき首に触れたのはアルハイゼンの舌って事?緊張が解けてリラックスしていた体が瞬時に固まる。今のうちにとアルハイゼンの下から抜け出そうとしたが、頭を撫でていた手を素早く取られ、そして私の体全体にアルハイゼンの体重が掛かる。
「お、重い……」
「君が逃げようとするからだ」
アルハイゼンの大きな手が私の額を撫でる。前髪を掻き上げられたかと思うと、アルハイゼンの唇がそっと額に触れた。
「怖い?」
私を甘やかすような、優しい声が耳元で響く。怖い、というわけではない。でも、アルハイゼンに全てを暴かれて、幻滅されないかなとか、上手に出来るかなとかそんな事ばかりを考えていると逃げ出したくなってしまうんだ。
ゆっくり首を横に振ると、アルハイゼンがふっと笑ったような気がした。
「嫌だったら途中でやめる。君が嫌がるような事はしないから安心してくれ」
「…うん」
私の額にアルハイゼンの額が触れる。鮮やかな色をした瞳が細められる。それに合わせて私もぎゅっと目を瞑ると、唇に柔らかい感触。私の両手を自分の首の後ろへと誘うと、アルハイゼンは私の服を捲り、素肌へと触れた。
「…………ちょ、やっぱりストッ…」
「無理だ」
肌へ触れられた瞬間に恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったから制止をしようとしたのに、食い気味で却下されてしまった。驚いて目を丸くしている私とは裏腹に、アルハイゼンの手がずいずいと服の中へと入ってくる。
「さ、さっき嫌だったらやめるって言った!」
「君を見ていたら分かるんだが、嫌だとは思っていないだろう。羞恥心でストップを掛けたのだったら諦める事だ。そんなものはさっさと捨ててしまうと良い」
「……ず、ずるい!」
確かに嫌だとは微塵も思ってはいないが、羞恥心に対する考慮は一切ないの!?抗議の意を示し、アルハイゼンの肩を押し除けようとするが、やはり、びくともしなかった。
「ずるい?君は今自分がどんな顔をしているのか分かっているのか?」
「……分かんないけど…」
「俺を煽るには十分すぎる程の女の顔だ」
そう言うと、アルハイゼンは自分のベルトに手を掛けた。カチャカチャという音と、まるで獲物を見つけた隼のような目をしたアルハイゼンを見て、ああもう逃げられないという事を悟った。