ティーカップの持ち手がずるりと滑る。零れる!と、慌ててもう片方の手でそれを支えると、私を動揺させた人物は「何やってんの」と言ってへらりと笑った。
「……なんて?」
「ええっ、もう一回言うの?」
「……やっぱいい。わ、わかったから……」
ふう、と息を吐いたティナリの唇が動き出したと同時にそれを制止すると、ティナリは不思議そうに私の顔を見て、首を捻った。ティナリの大きな耳が揺れるのを眺めながら、できるだけ平静を装って、ティナリの言葉を反芻する。
好き?ティナリが私を?
ティナリと私は幼馴染で、昔から彼の事をよく見ていたからこそ、ティナリは医学や植物といったそういったものにしか興味が無く、ましてや色恋沙汰なんて彼には以ての外だと思っていた。そんなティナリが私の事を好き?
彼の言葉を自覚すればする程身体中がじんわりと熱くなっていく。自分の耳をひたすら見続ける私を、ティナリは素知らぬ顔で眺めている。そうだ、返事。返事をしなくては…と、ティナリの顔を見た途端、心臓が大きな音を立てて、そして自分でも分かるくらい身体中の熱が一気に顔へと集まった。
「真っ赤だね」
「…そこは見て見ぬふりをしてよ…」
「大方予想はついていたんだ。君は驚くだろうって」
「……そうなの?」
「君の事なら、ティナリは医学や植物にしか興味がないと思ってた、とか思ってそうだからね」
う、まさにその通り…黙る私を見てティナリは大きな目を瞬かせると、声を上げて笑い出した。
「あはは!図星なんだ?」
「……うん」
大きな声で笑うティナリと、消え入りそうな声で返事をする私。これじゃあまるでどっちが告白をした方なのか分からないじゃないか。
「君って本当に分かりやすいよね。まぁ、そういうところが好きなんだけど」
「えっ」
「えっ、じゃないよ。もう一度言ってあげようか?」
向かいに座っていたティナリが少し身を乗り出して、私の瞳をジッと見る。朝日を浴びた植物のような緑の中に、赤い顔をした私が映っている。ごくり、と思わず唾を飲み込むと、ティナリがふっと笑った。
「草や木々、花や蝶。色んなものにだって恋ができる世界で、僕は君の事を好きになっちゃったんだ」
ティナリの頬が、私と同じくらい赤く染まっていく。テーブルの上に置かれて固まっている私の手に、ティナリの指先がちょんと触れた。
「ねぇ、返事は?」
上目遣いでティナリが私の顔を覗き込む。
あんな殺し文句を言われて、首を横になんて、振れるわけがない。