熟れた赤色

「明日、来て」

 そう言われたものだから来てみれば、私を呼んだ張本人は芝生の真ん中、一番陽の光の降り注ぐ場所ですぅすぅと寝息を立てていた。狼に育てられた彼だからこそできる事だが、この辺りにはヒルチャールもアビスの魔術師もうじゃうじゃいるというのになんて不用心なんだろう。まあ襲われたところでそれを蹴散らしちゃうくらい強い事は知ってるんだけどね。

 気持ち良さそうに眠るレザーの鼻の頭を指で摘んでやると、レザーの眉間にギュッと皺が寄った。まだあどけなさの残る寝顔をもう少し眺めようかなと鼻から指を離すと、その手を取られる。え?と思った時には視界が反転していて、あまりにも突然の事に何も反応する事ができなかった。身体中に温もりと、嗅ぎ覚えのある匂いがしたかと思えば、目の前にはレザーの寝顔があり、驚いて体が跳ねる。距離を取ろうにも体は拘束されており、どうやら寝ぼけたレザーに抱き締められているんだという事に気が付いた。

「レ、レザー!」

 彼を起こそうと大きな声を出してみるが、眉間に皺が寄るだけでその目は開きそうにない。どうしようと身を捩れば捩る程離さないとでも言うかのようにレザーの腕に力が籠る。そしてその手はまるで何かを探すかのように私の背中を弄っていく。寝ぼけてるにしてもタチが悪い!擽ったいような妙な感覚に変な声がでそうになるのを必死に我慢する。あどけなさの残る寝顔とは思ったがレザーだって男だ。私だって男の人にこんな風に抱き締められたらどうしても意識してしまうというもの。だんだん顔に熱が集まってきた気がする。動いても無駄だと観念して小さく息を吐くと、目の前にあるレザーの口がもごもごと動き出す。

「…ん、」

「レザー!起きて!」

「……ん?なんで、お前、ここに?」

 レザーがゆっくりと目を開ける。赤色の綺麗な瞳の中に映った自分と目が合った。まだ寝ぼけているのか目前にある私の顔をじーっと見つめるばかりで、レザーは私を拘束する腕の力を緩める事はない。

「レザー寝ぼけてるでしょ?離して!」

 なんとか動かせる手を使ってレザーの体を軽く叩いてみるが、レザーは不思議そうに首を捻るばかりで一向に私を解放する気がないようだ。すると、目の前にあるレザーの顔が徐々に近付いてくる。慌てて顔を逸らそうとするがレザーが私の後頭部を掴んで自分の方へと私の頭を固定する。鼻先が触れ合うくらい近い距離に思わずギュッと目を閉じると、額に何かがゴツリと当たって思わず目を開けた。私の額に当たったものはレザーの額で、やっと目が覚めたのか大きな瞳を瞬かせたレザーが私の目をジッと見た。

「なんで、赤い?」

「…赤い?何が?」

「お前の、顔」

レザーの言葉に益々顔に熱が集まる。一体誰のせいだと思ってるの!

「い、いいから!離して!」

「………やだ、お前、あったかい」

 少し目を細めて笑うと、レザーは私の体をもう一度ギュッと抱き締めた。な、なんでそうなるの!?レザーの背中をバシバシと叩いてみるが、私の首元に顔を埋めたレザーが寝息を立ててる事に気付いてガクリと項垂れた。
あんな真っ赤な顔をレザーに見られてしまった。どうか彼が夢だと勘違いしてくれますように。

 
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