その前にいただきますを

 身を売り金を稼ぐ、そのような行為はモンドでは全面的に禁止されている。無論それらの取り締まりも西風騎士団が担当している事で、いつもヒルチャールやアビスの魔術師達の討伐ばかりしているものだから久しぶりの複雑な任務内容に背筋が伸びる思いだ。けれど、有能で軽薄という(私の中で)相反した評価を持つ同期の手に掛かればこれくらいの任務は赤子の手を捻るくらい簡単な事だったようで、残念ながら私はただ背筋を伸ばしただけの付き添いの者になってしまった。
 不貞腐れた表情で連行されていく女達を尻目に、建物を封鎖すべく中へと入ると、部下達にテキパキと指示を出す隻眼の同期と目が合った。

「……あとは俺とこいつに任せてくれ。お前達は先にモンド城へ帰ってジンに軽く報告しておいてくれないか?」

 ガイアは私の腕を引くと、部下へそのように告げた。な、なんで!?という思いを込めてガイアの顔を見ると、ガイアは目を細めて笑った。彼は隻眼だから本当のところは分からないが、あれは話を合わせてくれという意味が込められたウインクだろう。ガイアの部下は返事をすると、他の仲間を引き連れて建物をぞろぞろと出て行った。

「……なんで?」

「今西風騎士団は深刻な人手不足だ。あいつらには帰ったら早々に他の任務に当たってもらう必要がある。俺は騎士団思いだろう?」

「……帰ったら次から次へと任務を押し付けられるから少しでもサボろうってこと?」

「人聞きが悪いな。少し休んだってバチが当たらないだろうって話だ」

 どうせそんなところだと思った…相変わらずよく回る口だなと感心する。けど、なら私も帰らせて一人で休めば良いのでは?そうガイアに訪ねようと思ったが、妙にご機嫌な様子の彼を見て何となくやめておこうと口を閉じた。
 それにしても、こんなところでガイアは休息が取れるのだろうか?室内を見回すと、変色した壁紙に、埃だらけの家具。部屋の隅にはゴミが纏めて置いてあって、できればこんなところ一刻も早く出て行きたいのだけれど…すると、私のそんな思いを感じ取ったのか、ガイアが私の腕をぐいっと掴んだ。

「流石に俺もこんなところに長居する気はないぜ?エンジェルズシェアで一杯どうだ?」

「……わ、悪いやつ!」

「酷い言いようだな」

 当たり前でしょ!とガイアの肩を叩くと、ガイアは「冗談だよ」と言って笑った。本当に冗談なのだろうかと相変わらず考えが読めないガイアの横顔を見ていると、視界の端に大きなベッドが映った。部屋中汚らしいというのに、ベッドだけは綺麗に整えられている。それもそうか、だってここはそういう事をする為の場所なんだし。そう思うと急に艶かしいものを見たような、複雑な気持ちになる。慌ててベッドから目を逸らすと、何故かガイアが私の顔を覗き込む。

「なんだ?やらしい事でも考えたのか?」

「ち、違う!」

 ニヤニヤと笑みを浮かべるガイアから数歩飛び退く。やらしい事を考えていないといえば嘘になるが、なんでチラッとベッドを見ただけの私を見てそんな事が分かるんだ。ガイアの観察力は普段からすごいなと思っていたけど、こんな時に発揮するのはやめてほしい。違うと否定はしたけど図星を突かれて露骨にガイアから目を逸らしていると、ガイアの指が私の指にそっと触れた。

「……ガイア?」

 驚いてガイアを見ると、ガイアは相変わらず笑みを浮かべたまま端正な顔を私の耳元へと寄せた。

「ここで休んでいくか?」

 ガイアは妖艶な笑みを浮かべると、私の指に自分の指を絡ませた。はあ!?といつものように声を上げようかと思ったが、熱っぽいガイアの視線が逃さないとでも言わんばかりに絡み付いていつもみたいに誤魔化せそうにない。
 そこでふと、なぜガイアが私と二人でここに残ったのだろうという疑問が降ってきた。もしかして、ガイアは最初からこの状況になる事が目的だったのでは?

「ストップ!」
 
 徐々に近付いてくるガイアの顔に、いつもの私ならきっとこのままどうにかなっていただろう。すかさずガイアと自分の顔の間に手を挟むと、予想外だったのかガイアが目を瞬かせる。

「……こんなところじゃ嫌。やり直し」

 ガイアの頬を片手でむにっと掴むと、ガイアは大きな溜め息を吐いてから観念したかのように笑った。

「……なら、どこがいい?」

「その前に愛の言葉がないんだけど」

 してやったりと笑って見せると、ガイアは「それは一番苦手なやつだ」と言って肩を竦めた。

 
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