甘言の対価は不要


「何でここまでしてくれるの?」

 行為が終わり、隣で目を閉じるアルハイゼンにそう問いかけると、アルハイゼンはゆっくり瞳を開けて、ジッと私の顔を見た。
 思い出すのも恥ずかしくなるような行為の数々。アルハイゼンは淡白そうに見えるが、これ以上ない程私に愛を与えてくれる。そ、そんな事まで?と思ってしまうような、普段の彼からは想像もできない行為に優越感を覚えて調子に乗った私はうっかり口にしてしまった言葉を後悔した。なぜならこの後の展開が読めてしまったからだ。頭の良いアルハイゼンは私の考えている事なら大体分かるのだ。だから私が欲しい言葉を敢えて避けて、きっと意地悪な事を言ってくるに違いない。アルハイゼンが瞬きをひとつしたと同時にその唇が緩く開く。

「俺が、君の事が好きだから」

「…え」

「は?」

 裏を掻かれるとばかり思っていたものだから、予想外の言葉に思わず間抜けな声が出た。そしてなぜかそんな私の反応を見てアルハイゼンも意味が分からないといった様子で困惑の表情を浮かべている。
 え?好き?
 アルハイゼンに好きだと言われたのは何も初めてというわけではない。恋人同士だし。けれど、朴念仁な彼からの「好き」はスメールの砂漠に落としてしまった宝石を見つけるよりもすごい事、そして貴重な事で、自分からその言葉を引き出しておいて、突然の事に真っ白になる頭と真っ赤になる顔で身体中がパニックになりそうだ。

「……君は俺にこう言われたかったんじゃないのか?」

「……そうなんだけど、まさか本当に言ってくれるとは思わなくて…」

 恥ずかしくなってもそもそとアルハイゼンに背を向けると、アルハイゼンの腕が伸びてきて私の事を後ろから抱き締めた。正面から抱き締められるのも勿論好きだけど、後ろから抱き締められるとよりドキドキしてしまう。ただでさえ言われ慣れてない事を言われドキドキしているというのに心臓が体を突き抜けて飛んでいってしまいそう。

「いつものアルハイゼンなら意地悪だから、さぁ?とかって片付けられるかと思ってたのに…」

「あまり意地悪をしすぎて君の機嫌を損ねてしまうといけないだろう」

「……今日、もしかしてする前にお酒でも飲んだの?」

「酒の味がしたか?」

 う…何を言っても私が照れてしまうような言葉しか帰ってこない。私の体に回ったアルハイゼンの腕をそっと撫でると、抱き締める力が強くなった。アルハイゼンはどんな顔をしてるのかと顔を向けると、少し眠そうなアルハイゼンと目が合って、自然と唇が重なった。

「……寝ようと思ったんだが」

「い、いいよ!寝て!」

 私が誘っていると思ったのか、アルハイゼンが身を起こしかけたので慌ててその体をもう一度ベッドへと引っ張って戻すと、「そうか」と言ってアルハイゼンは元の場所へと寝転がった。

「…俺はもう一回しても良いが?」

「……あんなの連続でしたら私が死んじゃう」

 私がそう言うと、アルハイゼンはふっと笑って「おやすみ」と言って私の頭を撫でた。
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