煙みたいに甘やかしてあげる


 手合わせをしないかと言われ、らしくない動きをするタルタリヤに膝をつかせたは良いが、それでもまだ闘志を燃やしているかのように鋭く細められた目は真っ直ぐ私を見つめている。

「何をそんなに怒ってるの」

 そう言ってみれば、タルタリヤは即席の笑みを顔に貼り付け地面に落ちた弓を拾い上げた。

「何が?心当たりがないなぁ」

 肩をすくめる彼をジッと見て、態と大きな溜め息をを吐くと、場の空気がガラリと変わったのが分かった。
 何が心当たりがない、だ。本人は誤魔化しているつもりなんだろうけれど怒っている時のタルタリヤは分かりやすい。青空の様な綺麗な瞳は伏せられた事によりまるで嵐の日の空の様に濁っているし、ふとした時に見る表情はゾッとするくらいの無表情だ。
 溜め息を吐いた私が気に入らなかったのだろう、タルタリヤの顔から笑みが消えた。この反応を見ると、どうやら彼が怒っている原因は私にありそうだ。タルタリヤの側に寄り、彼の頭に手を伸ばすが、触れる直前に彼の手によって振り払われてしまった。振り払われた手がジンと痛む。俯き顔に影を落とす彼の表情は窺えない。けれど、こういう時のタルタリヤはまるで一人ぼっちの小さな子供の様で放っておけなくなる。意を決して彼の体を両腕で包み込んでみる。タルタリヤの体が小さく跳ねたが、抵抗する気はないらしい。もう一度そっと頭に手を伸ばしふわふわの髪を撫でると、タルタリヤは擽ったそうに身を捩った。

「どうしたの、アヤックス」

 小さく呟くと、タルタリヤは勢いよく顔を上げた。まるで泣き出しそうな顔をしている彼が可愛くて、徐々に口角が上がってくる。そんな私を見るとタルタリヤはムッとして頬を膨らませた。

「…何で笑ってるのかな?俺、怒ってるんだけど」

「心当たりがないんじゃなかったの?」

「…あるに決まってるだろう」

 やっぱり。ふふ、と思わず私が声を上げて笑うと、タルタリヤは私の体をギュッと抱き締めて頭に頬擦りした。さっきまで怒っていたとは思えない反応だけれど、タルタリヤのまるで猫のように気まぐれなところには慣れっこだし、彼のこういうところが好きなので仕方がない。

「で、何で怒ってたの?」

「……君、構成員の男と楽しそうにお喋りしていただろう」

 え?ヤキモチを妬いたってこと?思わずタルタリヤの顔を見ると、珍しく少しだけ頬を赤く染めている。タルタリヤの青く澄んだ瞳が私の瞳をジッと見つめる。綺麗な青に映る私の顔もほんのり赤くなっていて、目を逸らしたくなるけれど、それを許さないとでもいうかのようにタルタリヤの手が私の頬を包み込む。

「…俺以外を見ないでよ」

 分かった?と言うとタルタリヤは自分の額を私の額へと合わせた。返事の代わりに彼の鼻先へとちゅっと音を立ててキスをすると、タルタリヤが嬉しそうに笑った。
やっぱり貴方には笑顔が似合うよ、アヤックス。
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