そんなんじゃ足りないよ

「さすがナマエは最高の友だな」

 その言葉にブチリと何かが切れる音がした。目の前にあるガイアの顔が歪んでいく。鋭い彼の事だ。きっと私が怒った事を察したのだろう。

 西風騎士団の同期である私達は仲が良く、何度も飲みに行くようになり、気が付けば同じベッドで朝を迎えている事が多々あった。その後も飲みに行けばどちらかの家に泊まり事に及ぶという流れが定番となっている。所謂体を重ねる関係になっているという事実から目を逸らすつもりはない。けれど、私は少しも気になっていない男と寝る趣味はない。もしかしたらガイアも…だなんて淡い期待をしていたがそれは彼の言葉により打ち砕かれてしまった。ただの話の流れで齎された友という単語にまるで頭を思い切り殴られたかのようにショックを受けるとは自分でも思わなかった。こういう時は笑って流したら良いのだ。いつもの彼の様に。

「そうだね。ガイアは最高の友だよ」

 目を泳がせているガイアの顔を見て、今更笑顔を取り繕って小首を傾げ言ってみたところでもう遅いという事は明白だった。私達以外いない会議室の向かいの席に座っていたガイアが立ち上がり、私の横の椅子を引いてそこへと腰掛ける。頬杖をついて私の顔を覗き込むガイアににっこり微笑み掛けると、ガイアは小さく溜め息を吐いた。

「……怒ってるだろ」

「別に?何を怒る事があるの?」

「…すまん。違う。あー…さっきのはだな」

 珍しく言葉に詰まり眉間を揉むガイアに苛立ちが募っていく。何が言いたいの?はっきり言えば良いのに。お前とは体を重ねるだけの関係なんだって。そうはっきり言ってくれれば平手打ちをひとつお見舞いして部屋を出て行ってやるのに。

 ガイアは自分の頭をガシガシと掻くと、体ごと私の方を向いた。しかし、その視線はすーっとどこか違う方を向いてしまう。その態度にもう一度何かがブチリと切れる音がした。

「ガイアはただの友達とも寝る事ができるんだ?」

 机を思いっ切り叩くと、ガイアが「落ち着け…」と言い私の両肩に手を置いた。それを振り払って勢いよく立ち上がると、座っていた椅子が後ろへ倒れる音がしたがどうでも良い。この場に居たくないと思い部屋を出ようとしたが、ガイアの手が私の腕を掴んだ。

「離して」

「好きだ」

 ……え?
 
 聞き間違いかと思いガイアの顔を凝視すると、ガイアは片手で顔を隠し俯いていた。そこから覗く耳は赤く染まっている。まるで時が止まったかのようにお互いの動きが静止する。

 あのガイアが照れている。何度体を重ねても赤い顔なんてひとつも見せなかったというのに。

 先程彼の口から出た三文字の言葉を脳内でゆっくり反芻する。正直、体だけの関係だとはっきり言われるか、濁されるかのどちらかだと思っていた。そんな私の予想を飛び越えた告白に、私の顔も彼の様に徐々に赤く染まっていく。

「………好きだ。……これで勘弁してくれ」

 ガイアが近付いてきてその顔が私の肩にぽすりと乗る。
いつも本音や言いたい事をうやむやにする彼が自分の思いを口にするのはどれだけ困難で、慣れていない事なのだろうかと、先程よりも真っ赤に染まったガイアの耳を見て思う。

 そんな初めて見る彼の一面に何も考えれない私は魚のように口をパクパク動かす事しかできずにいたが、エネルギーを使い果たしたかのように私の肩で大人しくなる彼に何か言わなくてはと言葉を絞り出した。

「ガイア」

「…………なんだ」

「も、もう一回言って」

 ガイアは大きな溜め息を吐くと「勘弁してくれ…」と言い、ぐりぐりと私の肩に顔を埋めた。
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