絡まって燃え尽きて


※動物、人間の死・妊娠描写あります


 飼っていた鳥が死んでいた。まるで握り潰されたかのように羽がくしゃくしゃの状態で鳥籠の中で横たわっていた。

 仲の良かった同期が亡くなった。秘境にて魔物に殺されたらしい。

 故郷の家族と連絡が途絶えた。こんな事今まで一度も無かったのに。

 何かがおかしい。そう思うのは当然だろう。あまりにも私の身の回りで不幸な事が起こりすぎている。ここ数日食事もろくに喉を通らない憔悴し切った私の背を、恋人であるガイアが慰めるかのように撫でてくれている。ちらりと彼の顔を見ると、ガイアは星空のような綺麗な瞳を細めて私の目元に口付けを落とした。ガイアの手が私の肩に回り、ぐいと自分の方へと引き寄せる。ガイアの匂い、ガイアの温もり。ああ、安心する。そう思うと次から次へと涙が溢れてきて、それを見るとガイアは少しだけ顔を歪めて私を抱き締めた。

「あんなにも可愛がってたのにな」

「…うん」

「あいつとお前の酒場でのやり取りを見るの、俺も好きだったんだぜ?」

「…うん」

「お前の家族の事だが、きっと忙しいだけなんじゃないのか?」

「……うん」

 仕事が落ち着いたら一緒に帰ってみようぜと言うガイアの声が遠くの方で聞こえるような気がする。

 可愛がっていた鳥、仲の良い同期、そして家族。失ったもの、安否の分からないもの、それらとの思い出が一気に押し寄せてくる。悲壮感、不安感、それらが私を蝕んでいく。

 胃から何かが迫り上がってくる感覚がし、私は洗面所へと走り出した。

「げほ、…はっ、はっ…」

 「大丈夫か?」というガイアの声に、こんな姿を見られたくなくて、大丈夫と返事をすると、その意図を汲み取ってくれたのかガイアがこちらに来ることはなかった。

 ガイアが居なかったら私はどうなっていたんだろう。大切なものをいっぺんに無くして、きっと立っていられないくらい辛く悲しい思いを一人で抱えていなければいけないところだった。飄々としていて軽く見られがちなガイアだが、恋人の私にはとても優しく、大切にしてくれているんだなという事がひしひしと伝わってくる。後できちんとガイアにお礼を言わなくては。まだ安否は分かっていないが、先程ガイアも共に帰ろうと言ってくれたし、両親にもガイアの事を紹介したいな。

 いつまでもくよくよしていてはダメだ。口を濯ぎ、ついでに顔も洗うと、いつも置いてある場所にタオルがない事に気が付いた。洗面所にある台の引き出しを開けてタオルを取り出しそれで顔を拭くと、刺激臭が鼻を突いた。

 乾いた、血の匂い。

 恐る恐る引き出しの奥に手を突っ込むと、タオルとは違う手触りの何かに触れた。それを一気に引き出すと、何故か血塗れのガイアの隊服が出てきた。

「……なんで」

 何でこんなところに血塗れの隊服を押し込んでいるんだろう。いや、そもそも何で血がついているんだろう。基本私達が斬るものはヒルチャールやスライム、アビスの魔術師で、宝盗団のような人間がモンドに現れる事は滅多にない。それらの魔物は赤い体液をしておらず、攻撃を与えると何故か消えてしまうものだ。それにもし人間を斬ったからといって何故こんなところに隠す必要があるの?

 すると、引き出しから何かがはらりと落ちて、それを見た途端またしても嘔吐感が一気に込み上げてきた。

 それは鳥の羽で、見覚えのある大きさの羽と色にじわりと涙が滲む。なんで、なんで、これは私が飼っていた鳥の羽だ。なんでガイアの家の引き出しから出てくるの。血のついた隊服を床に置き、震える手で引き出しの奥に手を伸ばすと、何かがカサリと音を立てた。それは白い封筒で、表の宛名は私を指している。送り主は私の両親で、なんでこんなものまでこんなところからと思ったが、脳がその先を考えるなと警告しているかのように吐き気が込み上げてくる。耐え切れずまた嘔吐すると、とある事に気が付いた。

 そういえば、いつから生理がきていないんだろう。一ヶ月、二ヶ月、いや、もっと?口いっぱいに広がる胃液の味に頭がくらりとする。

 血塗れの隠された隊服、鳥の羽、そして私の両親が書いた手紙。誰が何をしたかなんて一目瞭然で、だけど、ガイアが、まさか、と認めたくなくて手がガタガタと震える。

「う、…げ、かはっ…」

 吐き気が止まらない。まさかと自分のお腹を撫でると、私の手の上に大きくて冷たい手が重なる。

「…ガイア」

 いつの間にか背後にいたガイアは私を見てにこりと笑うと、私が引き出しから引っ張り出した隊服と鳥の羽、手紙を見て肩をすくめた。

「人の家の物を漁るなんて悪い子だな」

 いつもと変わらない調子のガイアに頭が殴られたかのようにズキズキと痛む。何を言っているんだろう。貴方がやったんでしょう。そんな思いを込めてガイアの目を見るが、その目はまるでなにも映していないかのように真っ暗で、体の底から恐怖心が湧き上がる。

「…俺以外のものに熱を入れるお前が悪いんだ」

 私の耳元に顔を寄せると、ガイアは低く冷たい声でそう言った。

 ガイアとの幸せだった日々が走馬灯のように蘇り、それらはガラガラと音を立てて崩れていく。私の意識が自分以外のものに向いた、ただそれだけの事で人や動物を殺め、私と故郷との繋がりを断とうとしたの?

 嫌だ、怖い、逃げたい。その場から立ちあがろうとしたが恐怖で足がうまく動かない。そんな私を見てガイアはははっ、と笑うと私の体をひょいと抱き上げた。

「無駄だぜ?お前はもう俺から逃げられない」

 ガイアは私のお腹に口付けると、光の無い目を細めて笑った。

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