触れてみて確かめて

「キミを好きだと言ったら、キミを困らせるだろうか」

 持っていた試験管が大きく揺れて、その中身がボンっと大きな音を立てて爆発した。試験管の割れる音と私が尻餅をつく音がして、脚立に登って本棚から本を取ろうとしていたアルベドが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。

「大丈夫かい?」

 こんな時でも眉尻をピクリとも動かさないアルベドに腹が立つ。私が実験に失敗した事よりも、その前の発言にだ。私の事が好きだとか聞こえたけれど、あまりにも平然としているものだから聞き間違いかと思ってしまう。でも、実験一筋のこの男が試験管の中身よりも私の心配をしてすっ飛んでくる時点で聞き間違いじゃない事は明白で、赤い顔を見られないように慌てて片手で隠した。

「おや、怪我をしているじゃないか」

 顔を隠していた手を取られる。アルベドとばっちり目が合ってしまって、顔に益々熱が集まるのが分かった。そんな私を見るとアルベドは数度瞬きをしてから何かに気付いたような顔をした。

「…脈が速い」

「え?」

「ほら」

 そう言って掴んだわたしの手首を少し上に上げた。脈が速いって、まさかこの一瞬に脈を測られたって事?思わず握られた手を振り払うと、アルベドは首を傾げた。

「どうしたんだい?」

「か、勝手に脈測らないでよ!」

「それよりも止血しないと」

 動揺する私とは裏腹に、アルベドはいつもの調子で、出血する私の手の甲を布で押さえた。至近距離にあるアルベドの顔に、心臓が大きく脈打つ。あんな事を言われたんだ。そりゃあ意識してしまうに決まってる。エメラルドのような瞳に長い睫毛。こんな容姿端麗な男が私の事を好きだなんて、やっぱり聞き間違えに決まってるよね。そんな事を考えていたら、宝石のような瞳が動いて、私をとらえた。

「ねぇ、さっきの脈の速さは爆発によるもの?それとも、僕?」

 息のかかりそうな距離にあるアルベドの顔が、ゆっくりと近付いてくる。エメラルド色の瞳の中にみっともない顔をした私が映っているけれど、それは下りていく睫毛によって見えなくなった。心臓の音がやけにうるさい。気が付けば私も目を閉じていて、唇には柔らかい感触がした。無機物のように、冷たい唇。でもなぜかアルベドらしいと思ってしまった。ゆっくり目を開けると、既に目を開けていたらしいアルベドが私の顔を凝視していた。

「わ、わあ!」

 我に帰って飛び退くと、アルベドは顎に手を当てて何かを考えているようだった。

「これがキスか、初めてしたよ」

「きゅ、急に何するの!」

 何って、と言うとアルベドは珍しく口の端を少しだけ吊り上げた。

「キミがしてほしそうな顔をしてたからだよ」

 そう言ってアルベドはまた私の手首を掴んだ。

「このドキドキは、僕のせいだよね?」

 そんな事、言わなくても分かるでしょ!
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