この浮かれきった日に

「お姉ちゃん、こっちー!」

 白い砂浜に青い海、照りつける太陽に肌がジリジリと焼けていくのが分かる。騎士団の一員とはいえ普段からデスクワークばかりを主体にしている私にはこの日差しはなかなかキツイものがある。そんな私の気持ちなどクレーは理解してるわけもなく、無邪気に砂浜を駆け回っては私をあっちこっちへと連れ回す。可愛いクレーに付き合ってあげたいけれど、体力の限界を感じてその場にしゃがみ込む。「あれぇ?」と首を傾げるとクレーは近くにいたジン団長の手を引いて向こうへと駆けて行った。
 遊んであげられなくてごめんね、クレー。と心の中で謝って、私は砂浜に寝転んだ。
 ドド大魔王から手紙が送られてきて、なんだかんだありここまで着いてきてみたけど失敗だった気がする。こんな事なら騎士団の冷房が効いた図書館でリサさんとアフタヌーンティーでもしていたかったな。だなんて考えながら青い空を眺めていると、私の顔に影がかかった。逆光によりよく見えないその人物は、仰向けに寝転がる私にずいっと何かを差し出した。

「熱中症になるよ。これを飲んで」

 この凛とした声は、アルベドだ。渡されたドリンクを受け取って身を起こすと、アルベドが私の横に腰掛けた。

「ディルックが作った熱中症対策の飲み物だよ」

「…美味しい」

「美味しいよね」

 檸檬味のドリンクが身体中に染み渡っていく。汗だくの私とは対照的に、アルベドは汗ひとつ流さず涼しい顔をして海を眺めている。さすがアルベドだ。真っ赤な顔で汗だくの自分が恥ずかしくなる。
 遠くの方でクレーのはしゃぐ声がする。みんなを誘って遊び回るクレー、ビーチベッドに寝転がるガイアとディルック、魚を取るレザー。みんな思い思いに夏を過ごしている。ああ、私も何か夏の思い出に残るような事しようかな。と思ったが、そういえば私の横に腰掛けるアルベドは一体何をしてるんだろう。

「アルベドはさ、何かしないの?」

「ボクかい?」

 うん、と言うとアルベドは顎に手を当てて考え込む。袖から伸びたアルベドの腕は私よりもうんと白くて、こんなにも強い紫外線を浴びて大丈夫なのかと心配になる。

「スケッチもほぼしてしまったし、特にないかな」

 そう言うとアルベドの視線は海へと戻っていった。アルベドはよくスケッチをしている。それは騎士団内でも有名な話で、その腕前も確かなものだ。言われてみればこの島に来てから見る度にアルベドはスケッチブック片手に何処かへと足を運んでいたように思える。凝り性の彼の事だ、もう書き尽くしてしまったというのも納得できる。

「キミは?」

「え?」

「キミは何かしないの?」

 海を見つめたままアルベドが私に質問を投げ掛ける。あまり人に興味のないアルベドからの問いに言葉が詰まる。何かしようとは思っていたけどいざ聞かれると何も思いつかない。妙な沈黙が続いて、何かないかと辺りをキョロキョロと見回しているとある事を思い付いた。

「砂!砂のお城作らない?」

「…砂のお城?」

 私が砂浜を指差すと、アルベドが首を傾げる。アルベドの返事を聞かず砂浜に駆けて行き、少し湿った砂をまずは山のように形成する。すると、着いてきてくれていたのか、不思議そうな顔をしたアルベドが私の横にしゃがみ込み同じように砂を盛り出す。

「砂でお城が作れるの?」

「作れるよ。作った事ない?」

「…ない」

 アルベドの白い手が砂を固めていく。アルベドとは同じ騎士団だがそこまで接点も無く、こんなにも言葉を交わしたのはこの島に来てからくらいだ。浮世離れしていて、何となく人を遠ざけているような気がしたが、クレーへの面倒見の良さなどから良い人なのかなとは思っていた。でも、突然単独行動を取ったり気付いたらいなくなっていたりとマイペースで不思議な所も多々あるんだなという事が判明した。
 そんな事を考えながら砂を固めるアルベドの顔をボーッと見ていたら、彼の海のように碧くキラキラした目が私を見た。

「ここからどうするの?」

「あっ、えーと。トンネルを掘る!」

「トンネル?」

「穴を開けるの。アルベドはそっちから掘って」

 びっくりした。顔をジロジロ見ていた事、気付かれてないかな。それにしても綺麗な顔をしている。白い肌に端正な顔立ち、この世の物とは思えないエメラルドグリーンの瞳。なんだか心臓がすごくうるさい。暑さでやられてしまったのかな。火照る顔の熱を逃すかのように首をブンブン振って、トンネルを掘る。
 というか、こんな子供の遊びのような事に付き合わせてしまって良かったのかな。もしかしたら内心馬鹿にされてたりして…いやいや、なら最初からボクはやめておくよって断る筈だよね!
 なんだか変な事ばかり考えてしまうな。と思っていると、トンネルを掘っていた手に何かが絡まった。

「あ、繋がったね」

 砂の山越しに聞こえる声に、一瞬何が?と思ったが、私の手に絡まるコレがアルベドの手であるという事に気付く。そーっと砂の山の向こうにいるアルベドを見ると、アルベドは嬉しそうに微笑んだ。

 繋がった手と、見た事のないアルベドの笑顔。ああ、色々暑くて、もう無理。

「あーっ!お姉ちゃんが倒れてるー!」

 その後、アルベドにお姫様抱っこをされてバーバラの元まで運ばれたという話をガイアから聞かされて私はもう一度倒れる事になる。

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