アランくんと双子の幼なじみ
週末の今日、別の地区の体育館でイベントがあった。元全日本セッターの犬畑さんが小学生向けにバレー教室を開いてくれるいうもの。もちろん俺も参加した。元全日本の人から教えて貰えるとかなかなかない機会やしな。

開催される体育館に行けば他の地区からも小学生が集まってるようやった。でもただバレーをやってる、というよりは多分真剣に取り組んで中学はちゃんと強いとこ行きたい考えてるやつらが多いんやないかなと思う。俺もその1人やし。
始まるまでまだ時間がある今そんなこと考えながら周り見とったら後ろからひそひそ、俺の名前を出して話してるやつらがいることに気がついた。ちらりと視界に入れれば同じ顔した男がふたり。すぐ双子なんやと分かったが、話してる内容がアホすぎる。なんやねんサムとツムて。まだサムはええかもしれんけど、ツムはおかしいやろ無理やりすぎるやろ。全然知らん、友達でも何でもないその双子に思わず突っ込んでしまったわ。
よく見れば、そのふたりのすぐそばに女の子もおった。やっぱり俺と同じようにアホやなあっちゅう目で双子を見とる。

「ツムとサムって、それこれからずっと使うつもり?」
「横文字の名前かっこええやんか!」
「お前なんて呼ばれたいん?」
「普通でいいよ……」

話しぶりを見るにどうやら関西出身じゃないらしい。標準語が物珍しくてちょっと見てしまう。あの子もバレーやんのやなあ。女子にしたら割と背は高い方っちゃ高い方か?あの双子とあんまり変わらんもんな。
その後も双子のアホな会話に心の中で突っ込みを入れてたんやけど、教室が始まってみれば、そいつらと一緒におったその女子は大分バレーが上手いんやなと感心させられてしまった。パワーがあるのはもちろん男子である双子の方なんやけど、その女子は器用やなという印象。多分パワーもそこそこにあるんやろうけど、使い時を分かっとるって感じやな。イベントの中心はやっぱりセッターの選手が来てるからその人にセットしてもらってのスパイク練が大きく時間とってたけど、サーブも少し教えてもらった。その時に特にその女子が器用だと思った。4年生にしてそのコースの打ち分けはなかなかできひんのちゃう?俺やってそんな精密に出来る自信ないわ。力がなくても嫌なところ狙ったり、わざとネットギリギリ打ってみたり、かと思いきやコート奥に深くキメてみたり。先生も大絶賛しとった。

「ぐぅ……!まだサーブはひかりに勝てへん……!」
「お兄ちゃん直伝だもーん。侑はレシーブもじゃない?」
「それはない!」
「侑私のサーブ取れないこと多いじゃん」
「ツム、サーブレシーブ両方ちゃんとやらなあかんのちゃう?」

ぷぷぷ、と態とらしく笑って揶揄うふたりに悔しそうに侑と呼ばれていたそいつがぎゃんぎゃん叫ぶ。そんでまた何かふたりが言い返すもんやから収拾がつかん。結局先生にコラ〜言われて注意されとった。……あの女子もなんやかんやアホなんちゃうか……?

「アランくんナイスキー!」
「っしゃあ!」
「今のセット上手いね、いいよいいよ〜」

最後にゲームでその教室は締めくくられたんやけど、俺らのチームのセッターにはさっきの女子が選ばれてやっぱり器用にボールを持ってくる。視野が広いとか、ゲームメイクが上手いとか、そういうんもあるけどそのボールの扱い方が丁寧やから多少無理やりな場面でも点がとれた。

「自分、上手いなあ」
「ありがとう、お兄ちゃん直伝なのと練習相手が侑と治だからかなあ」

でもやっぱり嬉しい、アランくんもナイスキーだよ

コートの反対側ではその侑と治と呼ばれた双子が悔しそうにしとる。それにニヤニヤ勝ち誇ったような顔を向けてるんがまたおもろい。

「名前なんていうん?あいつらは侑と治やんな、どっちがどっちか分からんけど」
「ひかりだよ!あっちの白い服が侑で黒いのが治」

いっつも3人でバレーやってるの、あのふたりもね、上手いんだよ



そうやって誇らしげに笑うひかりの顔は朧気とは言えなんとなく今でも覚えてる。知り合った時からこいつらは3人でバレーしとったし、一緒に居るんが当たり前やったな。




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