宮兄弟と幼なじみ1
「ひかりちゃんていつも侑くんと治くんとおるよね」
「もしかして好きなん?」
「……?」

兵庫に引っ越してきて最初の夏休みはあっという間に過ぎ去って、新しい学校での生活が始まった。蓋を開けてみれば場所が違うだけでやることは変わらない。友達作りも侑と治がいてくれたおかげで難なくできた。
結局残りの夏休み期間は侑と治とほぼ毎日一緒にいた。思い返しても会わなかった日を数える方が早いくらいだと思う。家が真向かいにあること、同い年だったこと、そして何よりバレーボールを一緒にやれることが大きかった。大抵ふたりが私の家にボールを持って押し掛けてきては両腕掴んで近くの公園まで連れていく。そうして飽きるまで何度も何度もボールを上げては拾ってを繰り返した。そうしているうちにふたりはそのまま家でご飯を食べていくことも増えたし、逆に私が侑と治のお家にお邪魔することも多くなった。バレーボールは少しだけにしてふたりが夢中になっているゲームを一緒にやることもあったし、ふたりの宿題を渋々手伝う日もあったりした。もちろん、夏休みらしく近所の夏祭りにも侑と治と、ふたりのママや私のお母さんと皆で行ったり、折角庭付きだからと張り切ったお父さんを中心に加隈家と宮家でBBQをしたり。いつだって侑と治と笑っていた記憶しかない。
私にとって、大袈裟に言えばふたりはヒーローみたいだった。ひとりでいた退屈な夏休みから引っ張り出してくれたのはこのふたりだ。いつも一緒にいてくれたお兄ちゃんは兵庫にはいないけど、ここには侑と治がいる。3人でバカみたいに、って言うとアホって言えって言われるから言い直すけど、アホみたいに笑っていられるだけで楽しかった。

だから、2年生になって直ぐに友達から言われたその言葉にはちょっと理解が出来なかった。

「好きだけど」
「やっぱそうなんや!?」
「どっち好きなん?」

友達は目を輝かせて聞いてくる。どっちが好きって、なんで侑と治のどちらかを選ばなくちゃならないのか意味がわからない。

「どっちも。侑も治も好きだよ」
「……それって変じゃない?」
「普通好きな人は1人なんだよ」
「……好きな人……」

もしかして、とその時に気がついた。目の前の友達は“れんあい”感情の方を言ってるんだ。お兄ちゃんが彼女を好きと言った時のような、アレだ。それなら。

「そういう意味なら、どっちも好きじゃない」
「えっ」
「そうなの?」
「うん、3人でいたら楽しいから、どっちかとかはないよ」

だってバレーボールをするのにも、どこか新しい所へ探検するのにも、近所の大きな犬に立ち向かう時も、ご飯を食べるのも、笑うのも、3人でいた方が断然楽しいから。


「ひかり!体育館行くで!」
「はよせえ!」

教室の前のドアのところに適当にランドセル背負って走って来た侑と治が叫ぶ。それを見てじゃあまたね、と友達に伝えてから私もふたりのところへ向かった。

「なんか、侑と治のどっちが好きなのか聞かれた」
「「俺やろ」」
「どっちも好きじゃない」

侑と治がふざけ口調で言った一言に正直に返せば流石にショックを受けたような顔をして立ち止まってしまった。私だけが歩き続けてても仕方ないから振り返ってふたりを待つ。

「おま、おまえ、さすがに好きじゃない言うんはあかんやろ!」
「治くんと侑くんは傷つきました!!」
「だって別に治も侑も男の子として好きじゃないもん。どっちか選べって、そんなのできないし考えたこともない」

じゃあ治は私と侑だけで遊んでいいの?侑は治と私だけで遊んでいいの?


それを聞いてふたりも考えるような素振りをしてからせやな、と一言。納得したらしい。仲間はずれは嫌だよね。

「ほらもう行こうよ、教室始まっちゃうよ」
「せやった!はよせな、コート取られる!」
「今日ひかりの兄ちゃんがやってたやつやろうや」
「絶対治できないよ」
「やってみなわからんやろ!」
「お兄ちゃんのがすごいもん」
「侑くんはできるで」
「侑もムリ」
「やってみなわからんやろ!」
「…しゃあないからレシーブしてあげる」
「ひかりの関西弁変やな!」
「やんな!」
「ふたりのがうつったの!」


先生に廊下を走るなと注意されてはぁい!とだけ答えてから、やっぱり3人で体育館まで走っていった。




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