宮兄弟とお向かいさん
人生初めての引っ越し、人生初めての関西弁、人生初めての双子との遭遇。それらすべてが衝撃的だった1日目から数日経ってようやく家の中が落ち着いた。段ボールは全て片付いて自分の一人部屋もできてあとは約1ヶ月くらいある夏休みを満喫するだけになった。当然友達なんかいるはずもないし周辺もよく知らないから外に出る気にもならなくて、今日もクーラーが効いた部屋でアイスを食べつつつまらない1日をどう過ごそうかなあと思っていたところにピンポン、とインターホンが鳴り響いた。

「ひかり出てきて」
「はぁい」

だらだらと玄関まで行ってドアを開ければあの日以来会っていなかった双子の侑くんと治くんが立っていた。その手にはやっぱりバレーボールを持っている。

「あ、えっと」
「暇か?」
「おかんがな、ひかりがひとりでおるから一緒に遊んで来い言うから来たったで!」

すでにひかりと下の名前で呼ばれているのは、この双子のお母さんの影響なのかな。家族以外にそうやって呼び捨てで呼ばれるのは初めてだ。

「うん、暇」
「よっしゃ、外行くで」
「バレーすんで」
「ふたりも、バレーするの」
「教室入ってる!」
「ひかりできるか?」
「お兄ちゃんが、バレーの選手、だよ」

まだ緊張してしまってたどたどしくしか話せない。だってこのふたりがどういう子かよく知らないし。ただ双子でどっちかが侑くんでどっちかが治くんで、お兄ちゃんと同じバレーボールが好きだってことくらいしかわからない。それでもこの時ばかりは、お兄ちゃんの真似をして私もバレーをやっていてよかったと心から思った。

「ほんまに!?」
「すごいなあ!プロか?」
「違うよ、ただ中学でエースやってて」
「「エース…!」」

今度はエース、という単語に胸打たれたらしいふたりを見て面白くって笑ってしまった。

「なんやねん、ひかり笑えるんやん」
「全然笑わへんでブスっとしとるから友達できんのちゃう」
「うるさいなあ、まだこっち来てちょっとしか経ってないんだから仕方ないでしょ」
「仕方ないでしょ、やって」
「関西じゃしゃあないなあ言うんやで」
「しゃあないな?」
「せや」
「でもやっぱ標準語かっこええなあ」
「それは、あんまり聞いたことないだけじゃない?」

靴を履いて、お母さんにふたりと遊んでくると玄関先で叫べばなぜか嬉しそうな顔をしてこっちまで来ていってらっしゃいと言われる。多分私に初めての友達ができたから安心してるのかな。

「あっちにおっきな公園あってな」
「でも行く途中に犬おんねん。あいつすぐ吠えるから嫌いや」
「ビビっとるだけやろ」
「治もビビってたやろ」
「あつむ、と、おさむ?」

目線を右に向けて侑、左に向けて治、と呟けばきょとんとした顔でこっちを向かれた。次の瞬間にはニヤッと笑ってぐるぐるその場で入れ替わって止まる。

「「どっちがどっちか当ててみぃ」」
「…どっちも一緒!」
「こっちが侑でこっちが治」
「全然ちゃうやろ」
「わかんないよ、一緒に見えるもん」
「当ててから公園な」
「えぇ、嫌だよもう行こうよ」
「あかんて、覚えろひかり」
「ヤダー」

そう言ってそのうちそのゲームにも飽きたふたりが私の腕を両方から引っ張って、全速力で公園へ向かう。その足の速さにびっくりしたけどそのうち楽しくなって笑って3人で駆けていった。

大事なお兄ちゃんを東京へ残したバレーだったけど、こうして新しい友達を連れてきてくれたのも結局バレーだった。




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