宮兄弟の誕生日
「ポンコツ双子、おめでと〜」
「なんやねんその祝い方は、もっと盛大に祝え」
「18やぞ、オトナになったんやで。18禁解禁や!!」
「へー」

10月5日、今日はお向かいさんで幼なじみ、宮兄弟の誕生日だ。いつも通り玄関先で挨拶してから家へ上がれば「ほらひかりちゃん来たで!!」というママの声が聞こえてきて、食卓を覗くと慌てて朝ごはんを掻き込む侑と治がいた。侑は割と寝坊しがちなところがあるけど、治まで一緒になってバタバタしてるのはそう多くない。珍しい、今日誕生日だから楽しみで寝られなかったのかな。……それはないか。遠足の前日でもあるまいし、小学生かって。それかあれかなあ、深夜いろんな人にお祝いされてたとか?ありそう、何だかんだ人気あるし、この2人。私の知らないところでいろんな人からたくさん祝われてそう。

「それにしてもあんたら18禁解禁しか言うことないわけ?」
「一大事やろ!!ちなみに大くんからのプレゼントは秘蔵映像や」
「おかげで寝不足やわ」
「…………」

角名と銀も今日絶対寝不足やで
やっぱええモンはシェアせな


……そういうことですか、そーですか、だったらさっさと準備してくれませんかね。呆れて冷めた目で2人を見てから頬杖をつく。一応侑と治は時間がないことだけはちゃんと頭にあるらしい、無駄口ききながらもその手は止めない。目の前にある朝ごはんは次々その箸に摘まれて2人の口の中へ消えていった。

「食べながら喋るな、汚いなあ」
「もう食い終わった」
「ごっそさんー」
「歯磨き学校でしなよ」
「後でするわ」

今度はドタドタ足音立ててお皿を片付けてから荷物を取りに行く幼なじみを見てひとつため息はいてから私も立ち上がった。なんとか時間通り出られそう。なにが18禁解禁だ、オトナになったって言うなら朝もっと余裕もって出掛けるようになって欲しいし、身内の前で下世話な話するのをやめて欲しい。ついでに言えばお兄ちゃんが頻繁に2人にアレコレ提供するのもやめて欲しい。
ママに行ってきます、と声をかけてから部屋を出て玄関で2人を待っていればさっきと同じような慌ただしい足音がして右に侑、左に治が座ってスニーカーに足を突っ込み始めた。

「で?」
「ひかりは?」
「は?」
「なんか寄越せ」
「俺ら誕生日やぞ」
「今年の誕生日も特に何も戴いておりませんのでおふたりにお渡しするものは何もありませんね」

わざとらしく丁寧に言い返して宮家を後にする。ふと空を見上げれば今日は綺麗な秋晴れで、気温も高すぎず低すぎずちょうど良い。部活もやりやすいだろうけど、動いたら暑いのは通年変わらないから水分補給はしっかりしなくちゃ。洗濯物よく乾きそうだなあ。裏方の私たちも動きやすくていい。
ふい、と飛んで行ったとんぼを見て季節を感じる。佐久早くんのいる東京も、秋らしくなったのかな。

「ゴムやったんに突っ返したんはひかりやろ」
「辞退や辞退」
「……人が折角いい気分だったところにそういう下ネタぶっ込んでくるのやめてもらっていいですかね」

後ろから来た幼なじみたちがまだプレゼントの話題を引っ張ってきた。大体何で今更プレゼントを欲しがるのか意味がわからない。今までだって一度もプレゼント交換なんて洒落たことしたことないし、毎年お互いの家でケーキを用意してもらうんだから普通の家より多く食べられるのは今年も変わらないのに。それに治はかほから、侑だって誰かファンの女の子からプレゼント貰うだろうし。それで充分じゃない?
そう思って口にすればやって最後やんか、と素直に侑が言うもんだから呆気に取られた。

「来年お前こっちおるかわからんやろ」
「3人揃ってとか、今年が最後やろなて昨日おかんが話しとった」

娘が上京してしまうわ言うて寂しがってたで
おとんもおかんも俺らよりひかりんことばっかり可愛がりよる


くぁ、と2人揃って同じタイミングで大きなあくびをしたのを黙って見つめた。……そういうこと言うの、ちょっとずるいじゃん。
高3になってから侑と治が別人みたいに見えることが時々ある。それはこの幼なじみたちも、3人揃って横並びで居られるのが春先までだろうなって思ってくれてるからなのかな。そうしてそれを私みたいに、少し寂しいと思ってくれたりしているからなのかな。

「せやから最後くらいなんかぶんどっておかな」
「まあ受験落ちたらお向かいさんのまんまか」
「それもそうやな」
「おかん喜ぶで」
「ぶんどるって何!?しかも縁起でもないこと言わんでくれる!?」
「ちゃんと勉強せえよ」
「あんたらに言われんでもしてるわ!!」
「毎日佐久早と連絡してるくせに」
「ケジメつけてます!!」

やっぱろくでもないわ、こいつら。ちょっとセンチメンタルになった私が恥ずかしい。
……でもさ、直接一緒にお祝いできるのは今年までだったとしても、別にお祝いしないなんて言ってない。来年兵庫から出ていっても、なかなか会えなくなったとしても、もっともっと大人になっても、その先も、10月5日がなんでもない日だなんて私は思わない。きっとずっと、侑と治の生まれた日だって、カレンダーを見ながら2人のことを想うよ。

「……じゃあさ、20歳になったらでいいじゃん」

そう言って後ろを歩く2人を振り返る。

「ハタチ?」
「そう、2年後。20歳になったら、プレゼント渡すの。私は治と侑にあげる。だから2人も私に何かプレゼントしてよ。2人合わせてでもいいし別でもいい」
「ハタチか」
「節目やしな」
「うん。それでさ、次は30になったらあげるの」
「そん次は40?」
「そん次は50か」
「いいじゃん、100まで目指す?」
「誰が生き残れるか勝負やな」
「ひかり真っ先にくたばりそうやな」
「残念、私は最後まで生きますう〜」
「バレーしてるんやから俺やろ、絶対身体強いで」
「「どーだか」」

私と治の声が重なって、侑がそれに不満げな声を上げて、また3人揃って歩き出す。ああだこうだと口にするのは未来のこと。その時の私たちがどうなってるかなんて今は分からないけど、それでもこの関係性だけは一生変わらないってことだけは、自信をもって言えるよ。


「……侑、治。誕生日おめでとう」
「おん」
「2年後、期待してるで」
「同じ言葉、私も返すね」
「期待しとれ」
「お前の期待以上のもん用意したるわ」
「それは楽しみだなあ」




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