マネージャーとお守り
「ねえみんなはさ、お守りとかやっぱり欲しい?」

部活終わり、何だか今日はジャンキーなものが食べたくなって珍しく私からいつものメンバーを誘ってファーストフード店にいた。時間が経って少し萎びたポテトをつまみながら4人に話しかける。みんな不思議そうな顔をしていたけどお守りというワードで納得したらしい。私に注目したのは一瞬でなんだそんなことかともう興味なさげに各々また携帯をいじったりストローに口をつけたりしている。唯一銀だけがせやなあとだけ返してくれた。

「別にどっちでもええけど、あれば嬉しいしなければないで」
「そもそもお前裁縫下手くそやん」
「歪なん渡される俺らの身ぃにもなれ」

両脇に座る、一言余計な幼なじみの頭を黙って叩いておく。スパンと我ながらいい音がしたなと思った後に抗議の声が上がったけど当然無視。

「急にどうしたの、大会近いから?」
「……いや、まあ……唯は、先輩たちとまたなんか作ってるみたいだから」
「なるほどね」

今年の春高までは、2つ上の学年にはマネージャーの先輩がいた。初めてできたマネージャーの後輩だからととても可愛がってくれて私もすごく慕ってて。その先輩が最後の大会くらい、せめてスタメン・ベンチメンバーだけでもと言って作り始めたお守り。そこそこに人数もいるし、先輩ひとりからというよりマネージャーからということで渡したいんだけどと相談されて一緒に手伝ったのはもう半年ちょっと前の話だ。クラスメイトであり、親友でもある唯が教室で裁縫道具を巧みに操りながら今年もサッカー部恒例のお守りを作り始めたもんだから昼休みにそんな話になった。
ちなみに私は裁縫はそこまで得意でもなくて、かと言って苦手すぎることもなく並レベルで。形が歪になってしまったけれど直す時間が足りずに渡す当日になってしまったものは侑と治へと回ったもんだから2人がブーブー文句言うのはまあ分かるんだけども。だって他の人に渡るより身内のとこに収まった方がまだいいじゃん。我慢してよ気持ちは込めたよ一応。
そんな経緯があったから、今年もなんとなくやった方がいいのかなとか唯が作っているのを見ながら思ったりした。だけど私は正直、祈るとか、願うとか、そういう類のものを侑と治に向けたことがない。その延長線上で、稲荷崎バレー部に対しても同じだ。だって勝てると思ってるし、実際それだけの実力があるってずっと見てきてるから知っている。信じてる、とはまた別で、なんて言ったら良いんだろう。確信、というか自信というか。そういうものが私の中には確固としてあって、そしてそれが揺らいだこともない。……多分こういうところはこの幼なじみたちと似ている、と思う。それでも先輩の案が悪いとは思わなかったしむしろ素敵だなとも思ったし、事実それを手にしたメンバーたちが喜んでいたのを見たからまあ頑張ってよかったなって思った。でもそれを伝統にするのはちょっと別の話かな、とも思うわけで。

「……みんながまた欲しいって言うなら、がんばろっかなって思っただけ」
「ほんでも今マネはひかりひとりやんか。スタメンとベンチだけ言うても大変やろ」
「俺は別にどっちでも」
「うん、多分かなり時間はかかる、と思う。正直裁縫とか得意でもないし」
「ひかり」

侑に名前を呼ばれて左隣を見る。こっちも見ずに携帯をいじったままだ。画面にはバレーの試合が映っていて丁度サーブを打とうとボールを床に打ち付けていた。

「今まで一度も俺らのために祈ったこともなければ頑張っての一言も言ったことないやつが何言うてんねん」
「必勝祈願ちゅう言葉が嫌いや言うてたやつがそんなん作らんでもええやろ」

そんなやつが作ったお守りとか笑かすな
逆に呪われそうやわ


左隣の侑だけかと思いきや、右隣の治までそんな風に言葉を続けるから視線が忙しい。治もかほに連絡しているみたいで全然こっちを見ない。……本当、よく分かってるなあ。

「呪ってなんかないし。ちゃんと気持ち籠ってるし」
「怪我すんなよ余計な世話かけんなよって脅しやろ」
「そんな心配もしないよね、ひかりは」
「それがひかりやろ。下手にザ・女子マネみたいな態度取られてもこっちが逆に心配してまうわ」
「銀とりんちゃんまで、言うじゃん」
「間違ってないやん」
「お前が今更、男の思う理想の女子マネなんかなれるわけない」
「そりゃそうだよ、私は誰の幼なじみで誰のバレー一番見てきてると思ってんの」

そう返してやれば鼻で笑ったのが両隣から聞こえてきたから私も笑う。もうひとつ摘んだポテトはやっぱり萎びてたけど塩気が効いてて美味しかった。





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