いつものメンツと
マネージャー
「あ!ひかり!昨日すまん!!」

朝いつも通り練習の準備をしていると早速自主練に来た銀ちゃんから申し訳なさそうに謝られた。隣にはそれを傍観するりんちゃんもいる。
昨日はこっちの手違いで古森くんに電話をかけてしまって、その後あの悪魔たちに邪魔されて散々な部活終わりだったのだけど―帰宅後佐久早くんから電話もらったから良い1日の終わりではあったけども……!―、多分銀ちゃんはその時にぽろりと口にした言葉に対して謝っているんだろうなっていうのはすぐに分かった。本当のことだし、別に気にしてないんだけどこういう所が銀島結という人の、人間らしさだよなあとどこかほっこりしてしまう。

「気にしてないよ、銀ちゃん悪くないじゃん」
「でもあの後1人で帰ったやんか、大丈夫やったんかな思って」
「ぜーんぜん平気だよ〜イライラしてるし今も許せないって思ってるのはあの双子に対してだから」

わざとらしいくらいににっこりと満面の笑みを銀ちゃんとりんちゃんに向ければ半笑いを返された。この2人も年数は短くとも濃い2年間を共に過ごして、私という人間がどういうものかよく分かっているからこの後の展開も予想出来るんだろう。そりゃあ黙ってここで終わるわけがない。私を誰だと思ってるの。加隈ひかり、あの宮兄弟の幼なじみだ。

「そういうわけでりんちゃんはお昼食べ終わったら携帯持ってきて、それで銀ちゃんも一緒に私のところに集合ね」

よろしく、と言えば黙って頷く2人は大変素直でよろしいこと。あのアホ共には何かしら報復をしたいと思いますのでご協力お願いします。





昼休み、ご飯を食べたら各々自由に過ごすのだけど大概の部員たちは途中からボールに触り始める。本当この人たちバレー好きだよねって、そんなのを眺めながら午後の準備をする時間も割と好きだったりする。練習とは違って遊びも入っているからみんな心底楽しそうにしているからかもしれない。私もこの人たちのためにまた午後頑張りますかって思える。それがよくある週末のマネージャーの私だけど、今日は侑と治に一矢報いてやるために後ろにりんちゃんと銀ちゃん、それから愛ちゃんを従えて体育館の入口近くで中の様子を伺った。りんちゃんにはカメラ係を、銀ちゃんと愛ちゃんにはボールを持っていてもらう。

「具体的に何を企んでんの、ひかりは」
「まぁまぁいいからいいから。見てて」
「ボールが必要なんですか?」
「愛ちゃんまで巻き込まんでもええやろ……」

お昼休みもあと15分くらいで終わるという頃合の体育館にはお遊びバレーを楽しむ部員が集まっていた。その中に侑と治もしっかりいて、1、2年に混ざってゲームに参加しているのを確認する。あいつらこっち側のコートにいるし、少人数だから周りにも迷惑かけないで済むし、これなら決行できる。
くるりと振り返ってりんちゃんにカメラを起動するように指示。ピコン、というお馴染みの起動音が聞こえたのを合図に報復スタートだ。

「皆さんこんにちは、稲荷崎高校体育館前より男子バレーボール部マネージャー加隈ひかりがお送りします」
「なんや始まったで」
「誰向けなんでしょう」

銀ちゃんと愛ちゃんのツッコミは無視してカメラ目線で続ける。マイクはないから自分の手でグーを作って口元へ添えてリポーター気取り。りんちゃんは相変わらず冷めた目で画面を見ていた。

「高校バレー界では宮兄弟として名高く、実力も兼ね備えた宮侑と宮治ですが、日常生活ではかわいいかわいい幼なじみを困らせるのが趣味のひとつと言っても過言ではありません。わたくし加隈ひかりは昨日も大変な迷惑を被った次第であります」
「自分でかわいいとか言ってるあたりがね、双子の幼なじみなんだよね」
「ひかり先輩はかわええですよ」
「愛ちゃん、ひかり調子乗るよ」
「本当のことです」
「愛ちゃんもブレへんよな」
「そんな本日はあの悪魔の双子に一矢報いてやろうとお昼休みの体育館へ参りました。あちら見えますでしょうか、手前のコートにいる金髪と銀髪が宮兄弟です。今日も巧みにボールを操っています」

ここで体育館の入口まで移動。私が動くから3人もぞろぞろ続く。手で2人を指し示しながらまた様子を見る。幸いこっちにはまだ気がついていないみたいだ。

「え〜加隈リポーター、どのような報復をお考えなのでしょうか」
「良い質問です、銀島選手。ここで質問返しです」

愛ちゃんからボールをひとつ受け取って銀ちゃんの方を向いた。

「私のバレーボールにおいてのウリはなんでしょう?」
「……コントロール力……?」

一瞬はてなを頭に浮かべていたようだったけど、ぽつりとそう答えてくれた銀ちゃんに朝のような満面の笑みを向ける。大正解だ。2年間正確な位置にボール出ししてあげてるもん、絶対分かるよね。

「そう、兄譲りのコントロール力が私の得意とするところなのです。みんなほどの威力はなくとも狙ったところに私は必ずボールを打てる」
「あー……」
「あー……」

確かに先輩のボール出しは正確ですよね、と納得したように言う愛ちゃんの隣でもう何をするか分かってしまった同期の2人は遠い目をしている。ちなみに愛ちゃんはちょっとノーコン気味だ。それなのにやたらとパワーがあるもんだから最初は部員のみならず私やコーチ、監督までもが度肝を抜かれた。今や懐かしい、4月の終わりのことだ。それはさておき。

「……と、言うことで」

体育館に足を踏み入れ、右側に愛ちゃん、左側に銀ちゃんを配置。りんちゃんは自分で良い角度を見つけて全景が入るように後ろから撮り続けてくれている。2人がまだこっちを向いていなくて、かつそのお遊びバレーがキリがいいことを再確認してからサッとサーブの構えをする。高く上げたボールをまずは侑の頭に目掛けて打ち込んで、その行方を追うことなく間髪入れずに愛ちゃんが持っていたもう1つのボールをもぎ取って同じように治の頭にも打ち込んだ。

「ダッ」
「イッ」

こっちを向くことも分かっていたから銀ちゃんからまたボールを奪うように取って同じく侑、そのあとに治の顔面に打ち込んだ。バチン、バチン!と予想以上に大きな音を立ててイケメンと称される悪魔たちの顔に思い切りぶつかったボールはそのまま床にてんてんと音を立てて転がった。
向かい側で一緒にゲームをしていた後輩も、別のコートで軽く練習していた他の部員もしん、と静まり返る。

「ご覧になりましたか?あれが稲荷崎が誇る宮兄弟です。顔面レシーブとか、ダッサ。なにがイケメンやねん、調子乗んなや」

カメラを向いてそうコメントしてから振り返れば、顔を抑えて俯いているアホども。


「あんたらほんまにちょっとは反省しいやこのポンコツども!!」


そう吐き捨ててから急いでその場を走り去る。すぐさま後ろから追いかけてくる足音が2人分聞こえてくるところまで予想範囲内だ。昼休みはあと10分くらいある。このために準備も休憩前に全部終わらしたから問題ない。あとは全力疾走して捕まらんようにすれば私の勝ちや!


「……あの3人、結局レベル同じなんよな」
「当たり前じゃん、宮兄弟の幼なじみのひかりで、宮兄弟が幼なじみのひかりなんだから」
「仲良くてええんやないですか。今日も稲高バレー部は平和やっちゅうことです」


その後、寸での所で捕まりそうになったけど校舎内や体育館周りを走り回って上手いこと逃げ切り昼休み終了の1分前にはまた体育館へ滑り込んで監督の隣へと避難した。鬼の形相で追いかけてきた侑と治だけが監督に怒られてたのでいい気味だ。日頃の行いはこういう所でものを言う。
ついでに言うとあの動画はすぐさまりんちゃんにより部活のグループチャットに投げられて拡散された。見事に後頭部と顔面にボールがのめり込んだ侑と治は暫く笑い者になった。ざまぁみろ、バーカ。




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