マネージャーとホワイトデー
今日はホワイトデーだったから放課後練習の最後に監督、コーチ、部員全員からのお返しをいただいた。私のリクエスト通りちょっとお高いマカロンだ。前にお母さんがデパ地下で散財とうきうきしながら帰宅しておすそ分けをもらったのがきっかけだった。外はさくさく中はしっとり、とっても美味しくて直ぐにそのブランド名を検索した。でもそれはひとつ400円近くして高校生のお財布には贅沢なものだったからあれ以来食べてない。ころんとした形とカラフルな彩りが可愛いその洋菓子はちょっとだけ私の中で憧れになっていた。帰宅したら早速開けて、写真撮ってから食べよう。
上機嫌で部活の片付けをしていたら目の前に立ちはだかる2年のスタメンメンバー。みんな高身長で筋肉もガッシリついた鍛えた身体だからこう、4人で目の前に並ばれると流石にちょっと迫力がある。いつもは横並びなことが多いもんなあと改めてみんなを見ていれば、口をちょっと突き出して睨みつけるようにしてこっちを見る侑、同じく口を真一文字に閉じてじっとこっちを見る治、一見無感情のように見える顔で見てくる倫太郎に3人を伺うように横目で見ながらちょっと落ち着きのない銀。全員なんにも言わない。痺れを切らして私から口を開いた。

「なに?4人で並んで、怖いよ」

それでもなんにも言わないで全員が横目で隣の人を見てる。……意味わかんないな。なんなの。

「……なんも用ないなら、片付けあるから行くね」
「ある」
「お前に用あんねん」
「侑と治が言うんじゃなかったの」
「誰でもええやんか、はよしろって」
「じゃあ銀がやれ」
「持っとるの侑と治やろ」
「……なに?本当に」

とうとう双子が揃ってムッとした顔をして、侑が持っていた小さな紙袋を私の目の前に突き出した。その紙袋に印刷されていたお店の名前を見て目を見開いてしまう。だってそこは、アクセサリーや小物類など主に女の子がおしゃれに着飾るために入るような店だったから。私のお気に入りで、たまにご褒美感覚で買い物に行くところだ。……もしかしなくともこれは。

「……おかえし……?」
「おん」
「これは俺たちからね」
「え、」
「今年でホワイトデー最後やなあって話したやろ?やから、俺たちで別で買ってきてん」
「……お前いつも部活ん時ダッサイゴムで髪まとめとるやろ」
「せやからバナナ?とヘアゴム買うてきた」

要らんのか、なんてむすっとした顔して侑が聞いてくる。みんなの言葉に追いつけなくて戸惑ったままその紙袋をそっと受け取った。

「開けていい?」
「好きにせえ」

カサカサと開けてみれば作りのしっかりしたバナナクリップと、可愛いけど大人っぽい飾りのついたヘアゴムがそれぞれ入っていた。さっき治が言ったバナナとはこれかと納得して笑ってしまう。

「かわいい、ありがとう。みんなで選んでくれたの?」
「男4人で周りの視線に耐えながらね」
「やっぱああいう所は女子ばっかやんな、当たり前やけど」
「かほ連れてくればよかったて後悔したわ」
「ほんまにそれやで、気ぃきかせろやサム」
「おい、いいように使おうとすんなやツム」
「想像つくと思うけど店でもこのふたりこんなんで、本当に決めるの大変だったから」
「予想範囲内だね、倫太郎と銀、お守りまでありがとうね」
「「なにがお守りやねん!」」

本当にこの双子がお店でぎゃあぎゃあやってる様は容易に想像できる。倫太郎も銀も大変だっただろうな。そんなに大きくない店舗の中で男4人であれこれ見ながらああでもないこうでもないって言いながらこれを選んでくれたのかなと思うと、うれしさが胸に点ったようにじんわり広がる。もう一度手の中にあるヘアゴムとバナナクリップを見て笑った。

「本当に、ありがとう。明日から使わせてもらいます」
「おん、ひかりに似合うやつ選んだからな!」
「双子がさあ、見事に意見割れてさ……」
「サムより俺が選んだやつのが良かったやろ」
「そんなん言うて結局これ全然違うやつやろが」
「結局4人でこれじゃね?っていう方にしたから平和に解決した」
「なにそれ、アホやな〜」

さて渡したし解散解散、とさっさと侑と治は着替えに向かってしまった。その背中を見送りながら銀と倫太郎も行ったらと促す。

「あんな感じだけど、あいつら結構真剣に選んでたよ」
「なんか渡すかいうんは全員で決めたんやけど、何渡すか思いついたんは双子やしな。やっぱよう見とるなあ思ったで」
「……知ってる、あれも全部照れ隠しだしね」

本当にアホな幼なじみだよねえ


侑と治から改まって、何かプレゼントを貰った覚えはあんまりない。お互いの誕生日だってケーキ買って持っていって、家で一緒に食べるくらいだ。何年も続く幼なじみという間柄だからこそ妙に気恥しさがあるのはお互い様だ。だからこそ、余計に嬉しいんだけど。

「片付けするかな〜ふたりもありがとうね。大事にする」
「イーエ。じゃあ俺らも行くね」
「気に入ってくれて何よりやわ!」

倫太郎と銀も見送ってから丁寧に紙袋にアクセサリーを戻しているともう一度名前を呼ばれた。振り返れば銀と倫太郎それぞれふたりらしい笑顔を向けている。

「ハッピーホワイトデー」
「また1年頼むな!」

ふふ、と笑ってから私も同じように笑顔を返した。

「もちろんです。コートの外はお任せ下さい」




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