マネージャーとバレンタイン
「はーい今年もみなさんハッピーバレンタインでーす」
「「アザース!!」」


2月14日、バレンタイン。朝練後に箱に入れた大量のチョコレートを置いて声をかける。毎日バレーを頑張っている部員にチョコくらいは用意してあげたいと今年も全員分キッチリ作って持ってきた。もちろん監督やコーチの分もあるから後で渡しに行かなきゃ。

「今年はブラウニーだよ〜」
「美味そうやな!今年もありがとうなひかり!」
「いえいえ。ホワイトデー期待してるね!」

銀が嬉しそうにそう言ってくれたからちょっとだけ照れくさくて、誤魔化すようにホワイトデーの話を出す。別にお返しなんてなくていい、そんなことより次の大会でみんなが最後まで残れるように今日の放課後からまた練習取り組んでくれればそれでいいし。このブラウニーだってその中の息抜きってわけじゃないけど、まあなんか合間のおやつにでもしてくれればいいかなって思ってるだけだしね。
よっしゃー!とブラウニーに群がってる部員を横目にさて朝練の片付けするかな〜さっさとしないと授業遅れるし、教室行ったら佐久早くんに連絡しよとか思ってたら、1年の平介から話しかけられた。

「今年で最後ですよね!?」
「え、あぁ、バレンタイン?」
「はい!ひかりさんからのは、今年で最後なんやなと思って」
「そうだねえ、そうなるか」
「大事に食べます……っ!」
「大袈裟だなあ平介。まあでもありがとう、大したものじゃないけどおやつにでもしてやって」
「はいっ」

最後ににこっと笑ってから嬉しそうに他の1年と混ざってワイワイやってる平介を見送る。私より何十センチも大きいのに可愛く思えるのは後輩だからかなあ。まあ一個下はみんなかわいいよね、素直な子多いし稲荷崎に来ただけあってみんなバレーに一生懸命で、私もこの後輩たちのためになにか少しでもできることしてあげたいって思うもんな。……できることかあ。





「って言われてね」
「せやなあ来年の今頃とか何してんのやろな」
「もう春高終わってるしね、多分みんな受験とか、推薦とかで大学でバレーとかしてるんじゃない」
「俺はボール触っとるかさえ分からんわ」
「治は高校でやめるんやもんな、それもやっぱなんや寂しいなあ」
「銀はほんと素直だよね」
「やって俺らチームメイトやんか、3年目やぞ」
「そういうとこが銀っぽいわ」
「?なんやねん」

日曜日のハードな1日練を終えて、いつものメンバーといつものラーメン屋でいつもの席につきながら麺を啜る。2年のスタメン達の会話を聞きながら私もいただきます、と少し遅れて箸をつけた。今日はチャーシューは絶対死守だ。また両脇に座る双子に取られてたまるか。

「倫太郎は来年も貰う気満々だったよね、ブラウニーがいいんでしょ」
「うん、チョコって感じのがいい」
「ひかり来年もくれるんか?」
「受験あるだろうから分からないけど、みんなが欲しいって言うなら作るよ」
「ひかり、来年はホールがええ」
「それをみんなで分ける感じがいいの?」
「いや俺一人分」
「食い意地張りすぎやサム、ほんなら俺もホールがええ」
「は?ふたりとも何言ってんの?作るの大変じゃん」
「毎年部員全員分作っとるやろ、今更なんも変わらんやろが」
「それはそれ、これはこれでしょ、ふざけんな


相変わらずだなこのふたりは……部員全員分作るのは全然苦じゃないし、むしろやってあげたいから作ってるだけだし。なんで治と侑の2人分をわざわざホールで作らなきゃならんの、しかもそれぞれにって。それはちょっと話違うわ。大体治はそんなもんかほに頼めばいいのに、貰えるもんは貰うっていうその精神は侑の言う通り食い意地張ってるわ。

「でもなんだかんだ言ってひかりは作ってそう。双子に甘いし」
「えぇそんなことない」
「頼んだでひかり」
「高校最後まで甘やかしてくれてええんやでひかり」
「銀と倫太郎にはちゃんとつくって持っていくね」
「「オイ」」

双子の一言は無視してまた麺を啜った。中太麺でちょっと味が濃い目のスープが美味しい。今日もまだまだ寒かったからあたたかさが身に染みる。

「……でも本当に最後にならないようにしてあげたいとは思ってるよ」

そう言って味玉にも齧り付く。この半熟加減がたまらんなあ、美味しい。ラーメン屋の味玉って最高だよね。

「3年になってすぐの私の大仕事は、マネ見つけることだから。多分それが後輩のためにもなるはずなの」

バレンタインがどうのこうのとかじゃなくて、稲高男バレの今後のためにもマネはいた方が部員は絶対楽だと思うから。それに私もふたつ上の先輩から教えてもらったことを後輩に引き継ぎたいっていうのもある。マネがいなくてもきっと部活は成り立つけど、それでも次に繋げることも考えなきゃとは思っていた。

「平介はそういう意味で言ったんじゃないの分かってるけど、マネのこと真剣に探さなきゃって改めて思ったんだよね」
「まあ、居らんくてもやってけるっちゃやってけるけどな」
「でも居てくれた方が楽だね、確かに」
「せやな。ひかり居らんと分からんこと多いもんな」

いつもありがとうな!とまた素直な銀が言ってくれた。それに笑ってとんでもないです、と返す。

「そういや今年は何がええん?ホワイトデー」
「え、銀今から考えてくれてるの」
「期待しとる言っとったやん?」
「冗談なのに」
「それにバレンタイン最後や言うけど、そんなん言ったらホワイトデーやって最後やんか。それこそ来年の3月14日なんて、ほんまに何してるか分からんやろ?」
「……そうだねえ」

言われてみればそうだなあと思った。来年のその頃なんて私たちはもう卒業式も終えてるはずだ。みんな兵庫に残るかどうかも分からない。ホワイトデーこそ来月が最後なんだなと思うとさっきの銀じゃないけどやっぱりちょっと寂しい気がした。

「うーん、マカロン欲しいかなあ〜」
「まかろん?なんそれ」
「ツム知らんのか、サクサクのやつ、クリーム中に入っとる菓子」
「ほーん」
「興味無さすぎじゃん」
「マカロン?がええんか?」
「うん、それでいいかな」
「最後なんだしもっとなんか強請れば?」
「いいんだよ、別にお返し欲しさに渡してるわけじゃないから。まあそんなに言うなら、インハイと春高、悔いなく最後まで笑っててくれればそれでいいよ」

それが最高の最後じゃん、それ以外私は別になんにもいらないかな


そう言えば一瞬じっと私を見たみんなだったけど、すぐに笑って任せとけって言ってくれた。頼もしいね。だからコートの外のことは私に任せといて、みんなはただまたバレーを毎日一生懸命やってくれれば、それでいいよ。




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