主将とマネージャー
「あっもうスタメンで撮ったの〜?」
「ひかりさん、どこ行っとったんですか」
「監督とコーチ呼びに行ってたんだよ!」

今日は3年生追い出し会、つまりひとつ上の先輩たちが完全に引退する日。休日をたっぷり使って毎年行われるその会は、ちょっと練習してからいろんなメンバー組み合わせでゲームをして、最後にワイワイみんなでご飯を食べるのが恒例だ。
そのご飯の前に、北さんが悪ふざけで横断幕の前で写真撮るって言うからそれはええですね!って言って、私はすぐさま食堂の方へ向かってしまった監督とコーチを呼びに行った。写真撮るならみんな揃ってた方がいいよね。
うちの学校の横断幕は、北さんの言う通り私もあんまり好きじゃない。思い出なんかいらんって、多分昔それを考えて横断幕に決めた人は大会に記念で出るんやないんやで、思い出作りとちゃうねんぞって気持ちでもあったのかなあなんて勝手に思ったりしてるけど、それでも私はこれを見る度いつかこの日常を懐かしむ日が来るに決まってるのになあって思ってた。試合に勝ちに行くのは当然、だけど3年間の日々はやっぱり私にとっては大切なものになるはずなんだ、だってこんなに濃い高校生活を送ってるのに、それを思い出と言わずになんというんだろう。だからこそ、部員たちが写真を撮るなら監督とコーチも揃っていなきゃダメじゃんって思って急いでふたりを引き止めに行った。

「コレの前で写真とは、信介、笑かすなあ」
「ええですね、この写真これから毎年撮ります?」
「来年も撮るんすか!?」
「それもいいかもよ、侑」

さっき撮ったスタメンの写真を見せてもらえばみんな見事にバラッバラで笑った。北さんがらしくてええから撮り直さん言うんですよって平介が言ってて更に笑ってしまう。北さんの言うことには同意だ。自然体でいい。ついでに言うなら真ん中でひとりにっこり笑っている北さんがまたいいなあと思った。

「はいじゃあ並んで〜!」

平介も行きな、とカメラを受け取ってから全体が入るように位置取りをする。そこそこ人数がいるからちょっと離れないとダメだなあと画面と睨めっこしながら移動していればひかり何してんねんと北さんから言われてしまう。

「え?これくらい離れないとみんな入らないですよ?」
「そうやなくて、三脚あるんやから使えばええやん」
「?なんでです?全員で撮るんですよね?」
「全員言うたやろ。選手だけやなくて、全員や」
「!」


……そっか、全員って、北さんはそういう意味で言ってくれたのか。


また少し、目がジンとした。あの日の新幹線の時と同じだ。

「……また泣きそうやなあひかり」
「っ泣いてませんっ」

そう言って急いで小脇に置かれていた三脚を取ってきて部員全員に背を向けるようにして準備をする。後ろからみんなの小さな笑い声とか、あいつ今泣いてるでとか言ってる侑の声とか、あと1年で何回泣くか賭けるかとか言ってる治の声とか。しまいにはそういや佐久早くんとはどうなったんやろな、順調です、なんで倫太郎が知ってんねんとかいう銀と倫太郎、アランくんの声まで聞こえてくる。くそう、あの新幹線の日以来完全に泣き虫キャラだと思われてるし、私の片想いはどこまでも筒抜けだな……!

……そうは言っても、やっぱりちょっと、泣きそうだ。こんなのも最後なんだなあって思ったら、色々思い出してしまう。このメンバーで稲荷崎高校男子バレーボール部で居られるのは今日が本当に最後なんだ。

「じゃあ、カウント10秒で取りますよー!」

三脚の上に乗せたカメラの画面には監督とコーチと部員全員がちゃんとおさまっている。ピントもあってるし、大丈夫そうだ。ピッとボタンを押して走って私も端っこの方で写真に参加した。

「撮れてますー!」
「ほんならお前らさっさと着替えて移動せえ、ピザとかもう届いてんで」
「アカン!冷めてまう!」
「オイ双子走んな!」
「カレーほんまにあんのかな」
「あながち幻臭でもなかったのかな、それにしても怖過ぎっしょ治」
「横断幕こっちで片付けるからみんな食堂集合してー!」

いつものように少し騒がしくバラバラとみんなが散っていくのを横目にまずはカメラを片付けなきゃと作業していたら北さんが手伝いに来てくれた。本当に先輩の鑑だな、侑と治なんか我先に着替えに消えってたというのに。

「北さんいいですよ、私やります。着替えないと」
「横断幕もあるんやろ?カメラくらいやるわ」

1年生が慌ててこっち来てくれたのも制してから、さっき撮った写真をもう一度見ている。満足そうに笑った北さんに私も思わず微笑んでしまった。

「ええ写真やな」
「はい、思い出なんかいらんって横断幕ですけど、私はやっぱりこれまでの毎日全部が大事な思い出です」
「……今日くらい泣いたってええんやないのか」
「……泣きませんよ」

こちらを見る北さんの眼を、私もじっと見返す。

「次泣く時は、嬉し涙です。それまで取っておくんです」
「ほうか」
「ふふ、横断幕片してきますね、北さんは早く着替えてください!」
「せやな」


北さんは自分の仲間がすごいってもっと言ってたかったって言ってたけど、私からしたら北さんたちだってかっこいい頼れるすごい先輩だってもっと言いたかった。だから、これからまた残りの1年、毎日やれることやって自慢の後輩になれるようになりたいとそう思った。




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