宮兄弟とマネージャー 1
稲荷崎高校に入学して約ひと月経ち、さあ明日から大型連休が始まるというその日の部活後。いつもなら双子と一緒に帰宅するけど今日はふたりから美容院に寄るから先に帰れと言われた。侑と治、ふたり揃って美容院に行くなんて珍しい。別にそんな髪もボサボサでもないし、伸び切ってるわけでもないのになあ、なんて思いながら分かったと言って1人で帰った。
明日から始まるゴールデンウィークは休日返上で毎日部活だ。初めての高校での合宿も控えていてマネージャーとしての仕事を覚えなくちゃならないというのがあったとしても、強豪校の合宿はちょっと楽しみだった。中学と違ってふたつ上にマネの先輩もいて、1ヶ月しかまだ一緒にいないけどそれでも良い人だと分かるから普段話さないこととかも話せたらいいなと思ってる。本当は別に女子マネは学校には泊まらなくても良かったんだけど、先輩と一緒に泊まりますって監督に言ったのはそんな理由もあったりする。夜少し夜更かししちゃおっかって話もしてるから家にあるお菓子持っていこ。そう考えていたら携帯が振動した。画面を見れば侑からだ。今からお前ん家行くからアイスなんかいるかって聞かれたけど、なんで今更家来るんだろう。さっさと帰って明日からの練習に備えればいいのに。でもアイスは欲しくて適当でいいとだけ送っておいた。


「えっ!!うわどうしたの!?」
「「染めた」」

数十分後、我が家の玄関先に到着した侑と治は最後に別れた時と随分様子が違っていた。ふたりの頭は侑は金に、治は銀に綺麗に染め上げられていた。初めてでここまで綺麗に染まるものなのかな、すごいな。

「思い切ったね!?」
「似合うやろ」
「うん、侑が金で治が銀って、なんかそれっぽい。綺麗に染ってるじゃん」

靴を脱ぐのにしゃがんだ双子の頭を同時に触る。まだ染めて丁寧に仕上げてもらったばっかりのその髪はふわふわさらさらしていた。玄関の蛍光灯の光でツヤツヤ輝いて見える。

「ブリーチで色抜いてもらった」
「うわあ、適当に扱ってたらこれからどんどん痛むね」

それから治からコンビニの袋を受け取り、中身を見ながら先にリビングへ向かう。アイスが5つ入っているところを見るとうちの両親の分も買ってきてくれたらしい。お父さんはまだ帰宅してないけどお母さんはいるからみんなで久しぶりに食べるかな。

「お母さん、侑と治来たー」
「かおりママアイス買うて来たでー」
「ただいまあ」
「!?どうしたのその髪!」
「染めた」
「似合うやろ〜?」
「似合うけど!すごい!見慣れないね!」
「ひかりよりママのがええ反応くれるやん」

テレビを見ていたお母さんは目をキラキラさせてふたりを出迎えてた。我が母ながら治の言う通りいい反応するなあ。いやでもまあ本当びっくりするよね。

「さらに男前なったやろ〜?」
「あっくんさらにチャラ男って感じ!」
「なんやねん!」
「間違ってないじゃん」

テーブルに袋を置いて早速買ってきてくれたアイスを勝手に取り出して開ける。お高いアイスって訳じゃないけどお気に入りのそのモナカをチョイスしてくるあたり侑も治も分かってるな。やったね。

「でもなんで急に染めたの?」
「高校デビューってやつ?良かったね、うちの高校も部活もそんな校則とかうるさくないしね」
「デビューでもなんでもあらへんわ」
「めんどくさいねん」

苦々しげに吐き捨てたふたりの言葉に私とお母さんは首を傾げた。予想してた答えと全然違う。めんどくさいって、何が?

「高校入っても間違えられんの、めんどいねん」
「あぁ、そういう」
「特にコートおると余計や、まだコーチも監督もよう間違えるやろ」
「なるほどねえ、侑くんも治くんも上手だからふたりとももうスタメンだしねえ」
「まだ公式戦じゃないけどね」
「インハイ絶対出るから俺らはスタメンや」
「ハイハイ」

確かに中学では流石にカラーは許されなかったから背番号とか、服の色とかビブスとかで区別されてたし3年一緒にやってれば部員も自然とどっちがどっちかなんて認識できる。だけど環境が変わればまたゼロからのスタートなわけで、春休みから練習に参加していたと言えどまだまだ定着してないのは毎日見ているから知ってはいたけど。それにしても金と銀って色のチョイスがね、ふたりらしいけど、派手だよね。

「またふたりといると私まで目立つなあ」
「今更何言うてんねん」
「もう充分目立ってるやん」
「それはふたりが目立つからじゃん」
「モテてすみませんねえ〜」
「侑ウザ」
「別に俺らなんもしとらんし。勝手に周りが騒いどるだけやろが」
「まあそうだね、それはそうなんだけど、そういうことじゃないよね」
「3人とも高校も楽しそうだね〜」

やっぱり3人一緒が、みんな楽しそうね


お母さんの一言にアイスを持つ手が止まる。改めてそう言われるとちょっと恥ずかしいから何にも言わずにまたモナカを口に入れた。侑と治もテレビを見たまま何にも言わない。それを見てまたお母さんがふふ、と笑っていた。

「ところでふたりはご飯食べたの?なんで家に来たの?」
「めっちゃ腹減って適当にバーガー食ってから帰ってきてん。やけど途中でアイス食べたなって」
「あとひかりに見せたろ思って家帰る前に来た」
「えぇ、もうちゃんとしたご飯食べなよ。ママきっと作って待ってるよ」
「どうせまた後で腹減るから問題ないな」
「胃袋ブラックホール過ぎ……」
「育ち盛りだから仕方ないね」

ほら、3人ともこっち見て


アイスを食べながらマヌケな顔した私たちをなんの合図もせずにそれだけ言ってお母さんは携帯のカメラにおさめた。それに文句を言いつつもう数枚撮ってもらったけど結局1枚目のアホっぽいそれが1番私たちらしいなって3人で笑った。




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