宮兄弟とマネージャー 2
中学になって初めて、侑と治が揃って大会のスターティングメンバーに選出された。元々の実力も十分備わっていたしメンタル面での強さも申し分ないと思うし―チームメイトとのコミュニケーションにおいては侑の言葉を選ばない物言いには少し問題があるけども、治がいるからまあなんとかなるかなというところ―、選ばれるだろうなとは思っていたからすごく大きな驚きは正直なかった。ふたりも驚きというよりようやく、やっとという気持ちの方が大きそうな喜びを持ってユニフォームと共に家に帰っていたし。私自身も同じだった。やっとふたりが試合で活躍できるところを見られる、その喜びの方が大きかった。

そんなこんなで、全国大会に通じる予選の初日を迎えた。コートの脇にあるベンチに監督と共に座るのにも慣れてきた。試合中にスコアをつける以外に何をすべきか悩むこともほぼない。入部したての頃、頭をフル回転して先を読んで、周りを見て、何が必要か今どう動くべきかずっと考え続けて裏方をやってきた甲斐あって、今や監督も部員もマネージャーという存在を頼ってくれることも多い。
キャプテンの集合!という掛け声と共にユニフォームを着たスタメンと、ベンチメンバーが集まる。監督から試合前に一言もらってからぞろぞろと散らばっていった。選手のその目は冷静でいて、かつギラついていて、試合前の緊張感と高揚感とが混ざっていて。それを見送るのが私はすごく好きだった。
侑と治も同じような目をして、デビュー戦になるというのに全然緊張なんかしてないようで堂々としていた。こういう意味でも、このふたりは選ばれるべく選ばれた人たちだなって思う。面と向かっては言ってやらないけど、自慢の幼なじみだと今日は素直に思えた。

コートに向かおうとするふたりに、なにか声をかけたくなった。ずっと小さい頃から見てきた侑と治が、ようやく公式の大きな試合に立つ日が来た。本当なら試合のこんな直前に声をかけるべきじゃないかもしれない、だけど私だって楽しみにしてたんだよ。

「侑、治!」

こっちを振り返ったふたりを見て、一瞬その集中を邪魔してしまったかなと思ったけど声をかけてしまったから後戻りはできない。なんて言おう、でも頑張ってとは言いたくない。いつだって真面目に、一生懸命にバレーをやってきたのは知ってるから、安易にそんなことは言いたくなかった。結局焦って咄嗟に出てきたのは、在り来りな一言だった。

「いってらっしゃい!」

少し垂れた同じ目でじっとこっちを見たあと、侑と治は顔を見合わせてから今度は不敵に笑ってみせた。

「おん」
「行ってくんで」

その日、華々しく公式戦のデビューを飾った侑と治はその後の活躍も目覚しく、バレー界隈では有名な双子になっていった。そして私が試合へと送り出すこの一言も、この日以来3人揃ってコートに入る最後の日までずっと続いた。




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