宮兄弟と幼なじみ3
小学生も高学年になるとさすがに男の子と女の子の違いや差が出てくる。例えば簡単に言えば身体付きが変わってくるとか、力の差が出てくるとか、女の子の背を追い抜く子が増えてくるとか。それこそいつまでも体育の着替えを同じ部屋でする訳にはいかないし、保健の授業では私たちが成長するにつれて当たり前に訪れることを正しい知識で学んだりする。要するに私は、男女の性差というものをこの所じわじわと感じていた。多分それを真正面から突き付けてきたのはバレーだったと思う。最近侑と治の足の速さにはついていけなくなったし、パワー負けすることはしょっちゅうだし、何より男女に別れてゲームをすることがとても増えた。ついこの間まで一緒にボールを上げて拾って繋いでって、してたのに。背だってふたりの方が高くなった。いつの間に抜かされてたんだろう。それでも別に他の女の子のチームメイトとやるバレーが楽しくないわけじゃない。でも、私は侑と治がいたからこの教室にいて、侑と治がいるからもうちょっとバレーをやってみようと思ったのに。

そうしてその日は訪れた。初めて生理がきたのは6年生の時だった。周りの友達の中にも私より先に大人の身体になった子はもちろんいたから話は聞いていたし、ちゃんと授業でも習ったし、保健の先生から万が一の時のための対処法だって説明も受けてた。だけどその日が来た時、私はやっぱりショックだった。私は当たり前だけど女なんだなって思った。分かってたことだし、それを今まで当たり前だと思ってたし、疑問を抱いたことなんかなかったけど、ここに来てあーあって落胆した。侑と治は男の子で、私は女の子で、この先ふたりはきっと今のようにずっと一緒に歩いて行けるんだろうけど、私はこのふたりとずっと一緒には居られないよって証明されたみたいだったから。


「……ふたりはバレー、中学でも続けるの?」
「当たり前やん」
「今更何聞いてんねや」
「……私はどうしようかなって思っただけ」
「なん、ひかりバレーやめるんか?」

そう聞かれたら直ぐにはうん、と答えられない。バレー自体はやるのも観るのも好きだけど、私は多分それそのものを好きかどうかの前に誰とやるのか誰のを観るのかが私にとっては大事なんだと思った。そんなこと、目の前のふたりにはちょっと言い難い。

「……わかんない」
「なんやねんそれ。大体なんで急にそんなん聞いてきたんや」
「……べつに。侑と治は、そういうこと一切考えなさそうだよね」
「「ないな」」

せやろな!って心の中で突っ込んでおく。小さくバレないようにため息を吐いてちらりと隣を見る。ふたりは並んでゴキュゴキュ音を立てながらスポドリを飲んでた。そんな一気飲みしたら良くないってお兄ちゃん言ってたよ。……ええですねえ、なんも迷いもなく進めるんは。
手に持っていたボールを弄る。つやつやしていて、それでいて手に馴染むこの感じは嫌いじゃない。何年もずっと、それこそこの隣にいるふたりと一緒にやってきたバレーだから、私だって続けたい。でもそれはこのふたりがいなくちゃ私にとっては意味がない。
ずん、と下腹部に鈍い痛みが走る。初めての経験にまた少し気持ちが沈んだ。……男の子だったら多分こんなことにも悩まなくて済むのに、身体の変化にもこれから先のことにも。

コートに、3人で立てたら良かったのに。


「……ほんまに、ほんっっっまに!やりたくないんやったら、やめればええやん」
「……侑バッサリ言うじゃん」
「やってお前なんや小難しい顔しとるし。そんくらい悩むんやったら、別にやりたないやつ無理やりやらしてもしゃあないな思うやろ」
「そら、そうやな。ひかりがそんなにやりたないならやめればええ話やな」
「……まあ、せやな」

ぽつりと関西弁で零す。やっぱりふたりは勝手にどんどん進んでいく。一緒に歩幅合わせてたと思ったのは私だけだったみたいだ。

「まあもし辞めてもマネージャー?とかもあるしな」
「マネージャーおる学校とか、なんか強そうやん!」
「……それ男子バレー部前提の話なん?」
「ちゃうんか?」
「女子バレーもマネージャーはおるんやっけ」

おったっけか?サム
知らんわ女子のバレー部のことなんか

やいやいふたりでまたアホみたいな会話を始めているのを、ボールから目を離して見つめた。まあ、ともかくと侑が言って、私を見る。治も水筒をまた口に着けながらこっちを向いていた。

「なんでもええけど、俺らがバレーやるんやからお前もやれ」
「結局やらせるんかい」
「……なにそれ、命令じゃん」


ほんまにアホやなあと返したけど、本当はすごくすごく嬉しかった。ふたりにはもう追いつけないことの方が多くなったけど、それでもまだ一緒にいるのが当たり前だと言って貰えたような気がした。
だったら私も、侑と治が行くところに行こう。先行くふたりについていけるように、他のことも頑張ろう。同じところで同じようにバレーに関わりたい、私は選手じゃなくてもいい、ふたりと一緒にバレーができるところにいれば絶対それは今まで通り楽しい毎日になるはずだから。




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