非オタには万人ウケが鉄板

「角名」
「見た」
「やばない?」
「あれはやばい」
「壁越えて行った先、海より向こうがあんなやったなんてって思わん!?」
「それ。続き気になる」
「やんなあ!」

今日も見て!
気力あったらもうちょい先まで見たい

朝、教室着いてから隣の角名が来るまでソワソワして待つ。そんで角名が来たら2人でハマってる作品見たか確認。見てたらヤバイとかいう語彙力のない感想を投げて、見てなかったらはよ見て!と急かす。それが今の一日の始まり。

なんでこんなことになったかって、角名に連絡先聞かれたから。ほんまにあの日からなんか面白いの教えて、から始まりオススメしたやつを角名はちょこちょこ手ぇ出してくれてる。もちろん部活があるからそんなに進みが早いわけやないけど、ほんでも自分が好きな作品を他の人もええな言うてくれるんは普通に嬉しい。まあ非オタにもウケが良さそうな万人ウケするよなって言われてるやつばっかやけど。手始めは話題も話題、社会現象も巻き起こしとった呼吸使いの鬼退治。これはもう鉄板よな。非オタの角名も読みやすかったし、アニメ見やすかったらしくてすぐ履修終えとった。その後も楽に見れるやつ教えたったりして、今は展開が怒涛の巨人の話おすすめしたらこっちはどハマり。バンバン人死ぬし結構グロいし話も暗いから、万人ウケするかは微妙なとこやったけど良かったわ。先が読めないし、予想は尽く裏切られるしでめちゃめちゃおもろかったらしい。わかるで……私も遅れてハマったタチなんやけど、3クール一気見やったからな……。平日少しずつ見てって、週末はもう朝から晩までぶっ通しやったし……これは激アツやで。
そんなこんなで角名は私ん中で隣の席に座るただのクラスメイトから最近よう喋るクラスメイト、寧ろ結構仲ええ方、くらいまでに一気に昇格した。やって昼休みの終わりとかもたまにおしゃべりするようなったし。流れで角名とご飯食べてその場におった治くんも混じったりすることもある。もちろんオタトークは封印して普通の世間話しとるんやけど。角名もそうやったけど、治くんなんか特に今まで全然関わったことなかったからなんや急に世界変わった気分や。
……言うて向こうがどう思ってるかは知らんけど、とか思っちゃうあたりが根暗オタクなんよな。いやでもホントのことやし。ほんでもまぁ、オタトークが学校でできるんはちょっとうれしい。全然深堀りした内容でもないけど、推し作品の話できるんうれしない?


「もうさ、あの最後の戦いんとこの団長がかっこよ過ぎてどうしようかと思ったわ」
「あの兵長と団長の話激アツだった。かっこよ過ぎ」
「わかるわ〜兵長がさ、あんな冷酷そうな顔しとっていっちばん人情に厚いの反則やない?ほんまに惚れる、あんなの惚れるよな!?ほんまにかっこええ……!あとさ?あの時あんなにあのキャラ弱くなってたんやからさっさと倒しちゃえば良かったんにとか、思わんかった!?私はもうはよせな!って思ったんやけど結局敵側に奪われたやん!?何やっとんねん!って思わず突っ込んでしまったわ。けどその後どう繋がるのかな思たらなんや許せてしまったりもすんねん。ほんで今に繋がっとるやん?作者の頭ん中どうなってんねや思わん?ほんまに天才の所業やわ……あとな、どっちを助けるかいう時もな、正直団長のがええ思ったんやけど」
「すげぇ喋るじゃん」
「!!あかん、待って、マジでキモイ」
「そんでまた反省すんの」
「いやほんまキモイやん、最悪」
「おもしろ」
「どこがやねん!おもろくないやろ……!」

やってしまった……!またや……!
角名とこの頃話すようになったんは良いとしても、好きな作品の話になると止まらんの、ほんまにキショい。マジでオタク特有の早口マシンガントーク。ないわ、死にた。非オタの前で熱くなってどうすんねん、熱量が違うんやで、オタクやないんやで角名は、なんで場の空気読んで自分で自分のストッパーかけられへんねん。キモ。そもそもここ教室やん、隠れオタクやってたんとちゃうんか、ちょーっと話せる人ができたからって調子乗りすぎや。アホちゃう。

「あかん……!隠れオタやってたんに……!角名と話しとるとオープンオタクになってしまう……!」
「もういいじゃん、別にみんななんとも思わないよ」
「何言うてんねん、オタクは皆等しくキモチワルイんやで」
「自分で自分のこと落として悲しくない?」
「事実やもん」

何度でも言うけどな、その自覚を持ってるかどうかは結構大事やで。その上でこの趣味を謳歌するんがオタクの心得や、っていうのは勝手なマイルールなんやけど。
キリッと角名の方向いてキッパリ言えば、それ自信持って言うことじゃないからね言われた。そりゃそうだが!分かってるけども!

「松田が教えてくれるのハズレないからすごい」
「せやろ?全部面白いからオススメしたんや」
「少年もの多いのは推し?がいるからなの?女子ってもっと恋愛漫画とか読んだり見たりしてるのかと思ってた」
「私はジャンルあんまり拘らんからなあ、たまたま少年とか青年系が多いだけで、少女漫画も読むで」
「どんなの?」
「えっと、待って今画像出す」

やっぱり普通の女の子は少女漫画読むんかなあ、私は面白い作品ならジャンル超えてなんでも読む雑食派。少女漫画も少年漫画も青年漫画も読むし、BLもGLも読む。古いも新しいも関係ない、好きと思ったら好き、そんな感じ。もしかして角名妹がそうなんやろか。それかあれかな、元カノとかがそうやったとか?確かに少女漫画の中のイケメンにキャッキャ言うんもええけど、そんな要素のないキャラのあれこれを妄想して二次創作読む方が好きなんよなあ。……あ、この発想がもはやオタクか、二次創作とかまず知らんよな非オタは。

「最近読んだんやけどこの作者のな、作品が良かったよ。特にこのふたつなんやけど」
「あ、なんかこの絵柄知ってる。有名じゃない?」
「そうかも!」
「どんななの?」
「生徒会の話の学園ものの恋愛漫画とガリ勉がモデルになるとこから始まるファッション系の恋愛漫画」
「両方知らない、結構前の?」
「学園ものの方は特に前かもなあ。従姉妹の姉ちゃんが教えてくれたからいつ頃やってたんかはあんま知らんけど。でも名作やから色褪せることないで」
「松田の言う不朽の名作多すぎじゃん」
「ほんまのことなんやって」

そう言えば、また可笑しそうに笑う角名。最近ようこの顔を見るようになった。なんや、角名結構笑いよるやん。いっつもツンってしとって、一見クールっちゅうか、見ようによっては冷めて見えるっちゅうか、何考えてんのやろとか思われるような顔しとることのが多いのに。この顔は話すようになってから知ったから、新発見やな。バレー部の前ではいつもこんな感じなんかなあ。でも治くんも似たようなタイプか……?なんなら2組におるスタメン2人の方が感情を顔に出すタイプよな。なんにせよもったいな。もっと今みたいに笑えばええのに。そしたらもっとファンとか増えそうやなあ。

「でな、この青い髪のこのキャラがめっちゃイケメンやねん。不器用なんやけど、ほんまにこの主人公のこと好きで、あとこっちの学園もの読むとこんな高校生活送りたかったー!ってなるで」
「まだあと1年以上残ってるのに何言ってんの」
「いやでもなかなかないでこんな青春……ええなあ、ってなるねんキュンってすんねん。ほんで恋したいなーってなんねん」

まあ私には縁遠い話なんやけど、と自虐のように笑って言えばなんで?と聞かれた。

「なんでって、そんなんオタクやし」
「俺は気にしないけど」
「それは角名が心広くて、やさしいから」
「俺別に、誰にでもやさしいわけじゃないよ」
「そうなん?」
「……ここまで言ってもわかんない?」
「?何が?」

角名が大きくため息をついた。えっなんで急にそんな落胆しとんの。私なんか言った!?

「毎日隣いるし、前より結構話すようになったし、連絡もとってるしって思ってたんだけど」
「……うん……?」
「全然トモダチの域から出てなかったんだね」
「……ん?」

頬杖ついて、だらしなーく机にもたれ掛かるように座ってこっちを見る角名はちょっと呆れ顔。一方私は話が見えへんから訳分からん顔。
……トモダチの域から出てなかったって、どういう意味?

「部活ハードだし、それでも勝ちたいしスタメンでもいたいから基本バレーが第一優先なんだけど」
「……知っとるよ?」
「うん、だから、そういう生活の中でわざわざほかの娯楽をねじ込むのって珍しいことなんだよね。時間あったら寝てたいって思うことの方が多いし」
「?せやな、やから角名のペースで見たり読んだりしてるもんな」

ええと思うで!推し方は人それぞれやん?

ええこと言った!思たのに、角名はますます呆れた顔してるんやけどなんでなん。納得できん。ええやん、見方読み方ペース熱量なんて個人差あるんが普通やない?別に私みたくオタクと並んで話せるくらいになって欲しくて角名にオススメしたわけやないし。いやそりゃオタクなったら楽しそうやけどなー思ったりもしたけど、本人には言うてへんし。なんやねん。


「……好きな人の好きなものって、どんななのかなって思ったから」


こういうこと言ってから始まる少女漫画とか、ないの?



「……は……」



あいにく、そんなセリフもそんな漫画も、見たことないし読んだことないです。




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