イベント帰りに遭遇した

日曜日、午後、晴れ!最高の休日、最高のイベント日和や!!

嬉々として家を出て向かったんはコスプレイベント会場。会場言っても街中で、許可された一帯が週末の2日間だけコスプレでの撮影OK、衣装着たまんまお店入るんもOKになるイベントや。色んなところに色んなキャラが溢れる、コスプレイヤーにとっては楽しい日。非オタの一般人の目につきやすいのは否めないんやけど、逆を言えばレイヤー仲間にも会いやすいいうこと。そんでもって憧れの人気レイヤーをカメラにおさめられるとも言えるんや!今日はオタ友が私の推しキャラのコスで参加してるんを知っとったし、SNS繋がってへんけどずっと前から密かに憧れとったレイヤーさんが来てるんもチェック済みやったから、相棒のカメラ持参してモブ参加。オタ友扮する推しとのツーショ撮るし、好きなレイヤーさん探して頑張って声かけるつもりやったからちょっといつもよりおしゃれもした。最近のオタクがみんな適当なダサい服着てるもんやと思わんといて非オタパンピーの皆さま。確かにうちらはキッショイ趣味してるんは自覚ありますけど、見た目は一応気を使ってます。だって推しの隣に立てるんやで。推しのレイヤーさんに声かけるんやで。ダッサイ服着てThe☆OTAKU!みたいなカッコしてられへんやろ。そんなん隣並べんやろ。少しは人間に近づきたいやん?彼氏の前では可愛くいたい彼女みたいな心境と同じです。次元がちょっと違うだけです。
そういう訳で、週末最終日の今日はめっちゃ充実のオタ活した。オタ友と推しレイヤーのピン写もデータにおさめられたし、携帯でもツーショ撮ってもらったし。オタ友マッジで顔が良いから彼氏面してもろたわ。推しに肩を抱かれた我、最強也……。憧れのレイヤーさんに声掛けるん緊張したけど快く撮影させてくれたしツーショも快諾してくれてほんま嬉しかったわ。後でデータ送るついでにご挨拶とお礼せな。はーほんま目の保養やったな。衣装も自作言うてたんやけどあのレベルを自作て、流石神。メイクもめっちゃ上手かったなあ。あのシャドウのグラデお手本にせな。そもそも顔の造形が違うんよな……自然体で笑った顔めちゃめちゃ可愛かった。これからもTL見て追っかけよ……。

ほくほくした気持ちでモブ参加も悪ないなあ、むしろ最高やん明日からまた学校頑張れるわあ思いながら駅のホームで電車待っとったら松田?と声をかけられた。急に現実に引き戻されてびっくりして声がした方向けば、そこにはジャージ姿の角名、とその他バレー部スタメンが揃ってた。ウワ、マジか……。私でも知っとる2年のバレー部スタメン……学校でもモテるし目立つ、上位組やからな……。なんや眩しいわ。片やオタクのイベント帰り、片や青春謳歌、部活帰り。何この落差。せめて服だけでもマトモなん着とって良かったわ。あ、メイクは濃いかも知れん……しくった……。

「……角名」
「休みの日会うとかビビる」
「それはこっちのセリフなんやけど……」
「なんかいつもと違う?」
「たぶんメイクやない、かな」
「ああ、確かに」

学校じゃほぼノーメイクに近い、ナチュラルメイクしかせんけど、今日はカラコンも入れとるしライン引いたりシャドウ濃い目に入れたり、リップも目に合わせて主張激しくならない程度には色入れてるし。髪も巻いてるから大分雰囲気違うはずや。むしろよく気がついたな角名ってレベルなんやないの。後ろの宮兄弟と銀島くんなんて誰?って顔しとるし。せやろなあ、ほぼ絡んだことないしなあこの人ら。ほんでもせめて治くんは角名と話してる時点で気がついてくれてもええんやないのとは思うんですけどね……一応クラスメイトなんやけど、もしかして名前も覚えられてへんのかな……。
結局陰キャオタクやからなとか考えてたら丁度電車が両ホームに入ってきた。角名は3人に別れを告げて私の方へ向かってくる。どうやら同じ線らしい。車内に入る前に一応宮兄弟と銀島くんにぺこりとお辞儀して挨拶すれば向こうも小さく会釈しとった。さすが運動部、挨拶とか基本礼儀はやっぱみんなしっかりしてんのやなあ。まあいまだにその顔には誰?って書いてあったけどな。

「部活やんな?お疲れ」
「そう、ありがと。今日他校で練習試合あったから」

車内は日曜の夕方ってこともあってか少し空いていて、2人分スペースがあったから隣り合わせで座った。いつもより近い距離にちょっと緊張しながら自分の荷物を膝におさめる。角名は重たそうな、運動部がみんな持っとるバッグを床に置いて一息ついとった。部活帰りやから疲れてんのやろな。
それにしても他校と練習試合かあ。週末もイメージ通りバレー漬けなんやな。ほんまにすごいな、えらいな。そんな陳腐な感想しか出てこうへんくらい、角名は別世界を生きる人に見える。実際毎日の生活を円グラフにでもしたら、それがハッキリ分かるんやろなあ。24時間、自分が学校以外で何しとるかなんて、勉強ちょっとやるか遊んどるか、オタ活しかしてへんわ。

「松田はいつものやつらと遊んでたの?」
「や、まあ……えーっと」

いつものやつらと遊んでた、は間違ってない。けどその角名のいう“いつものやつら“は多分クラスメイトのことやから、素直には頷けへん。なまじ隠れオタクしてるんを知られてるからかいつもなら隠し通せるこんな会話もなんやキョドってまうわ。

「もしかしてなんかそっちの趣味の?」
「(そっちの趣味……)あぁ、うん、まぁ……」
「コスプレしてきたの?見たい」
「や、今日はしてへんねん。今日は撮る側。カメコ」
「かめこ?」
「えーっと、カメラで、撮る人のことカメコ言うんやけど……」
「へぇ。あ、もしかしてそれに入ってんの?」

思わずオタク用語を口にして焦ってる私の横で、興味津々に膝の上に乗せとる黒いカメラバッグをじっと見る角名。てかなんで分かったんや。

「え、なんで分かるん?」
「だって可愛い格好してるのに、このバッグ服に全然あってないじゃん」

カメラで撮ってきたっていうから、だったらカメラ持ってきてんのかなって


な、なるほど。観察眼鋭ない?どっかのちっさい名探偵かなんかか?しかもなんやサラッと可愛い格好とか言われたんやけど。モテ男怖。
そこまで言われたら、角名は私の本性知っとるしまあカメラくらい出してもええかなって気になってカメラバッグから真っ黒いそれを取り出した。レンズはまあ付けんでええやろ。

「結構本格的なやつじゃん」
「せやねん、相棒やで。ずっとこれで撮ってんねん」
「これ一眼レフ?高そう」
「眼レフやけど、元は父親のやから。おさがり。でもお気に入りやねん」
「やっぱり仕上がり綺麗なの?」
「そりゃそうやで!全然違うし撮り方とかで表現の幅とかきくし……フォトショ使って編集するんも楽しいから、やっぱり眼レフで撮りたくなる」
「今日撮ったの見せてよ」
「……引かへん?」
「今更別に引かないし」
「なら、まぁ……」

電源を入れて、今日撮ったばかりのデータを小さな液晶に映し出す。何枚もあるうちの特にお気に入り、これよく撮れたわ!っていうのを選んだ。

「へぇすごい、綺麗に撮れてる」
「今日な、ええ天気やったやろ。せやから顔に影出来んように被写体の立ち位置とか顔の位置とか調整すんねん。太陽の位置によって撮り方も、撮れ方も違ってくるからその辺大事でな、ほんでこれは後ろの木とか入れたらもっと綺麗やないかなって思って立ってもらってんねんけど……こっちは空入れた方がええかなって思って、」

そこまで話してハッとした。あかん、非オタ相手にペラペラ喋ってどうすんねん。困るやろ、しかも被写体て、モデルやなくてレイヤーばっかやし。あーダメやわこういう時隠れオタとか関係なく早口で喋ってしまうの、ホントオタクやわ……自分で自分に引くわ……。
それやのに、そんな私を角名は気にしてへんのかじっと画面を覗き込んだまま感心したように「カメラ上手いんだね」と言ってくれた。

「えっ、あ、ありがとう。……でももっと上達したいなあ思てる」
「そうなの?充分じゃん」
「もっと上手い人は上手いで」

本当はこんな風に撮る人もおんねんで!って憧れてるカメラマンさんの作品も引っ張り出して見せたいくらいやったけど、ここは我慢や……。オタク特有のマシンガントークを非オタの前でまた晒したら相手が可哀想やろ……。

「す、角名さ、カメラの話つまらんのちゃう、ごめん、めっちゃ喋っとったわ」
「なんで?聞いたの俺だし。それに知らない世界だから、逆に聞いてて面白いよ」


今度は私がぽかんとしてしまう。この間角名がきょとんとしてたみたいに。だってそんな、知らない世界やからって、オタクの話聞いてくれる非オタが存在するなんて、思わへんかったから。どんだけ優しいねん、角名。偏見も持たずに、希少価値高すぎるわ。

やっぱり角名は私の反応を気にすることなく、私が持ってるカメラのデータを勝手に遡ってひとつひとつ興味深げに見とった。ぽちぽちとボタンが押される度に手の中のカメラも沈む。角名の言動に逆に私が置いてけぼりや。

「あ、俺もこれは知ってる」
「あ、うん、せやろな、流石にこれは知っとるよな」
「俺このキャラ好き、三刀流カッコイイ」
「好きそうやな」

写ってるんは、国民的と言っても過言やないかの有名な海賊漫画のレイヤーさんたち。結構大人数で合わせしとって、殆どの主要キャラが集まっててクオリティも高めだったから撮らせてもらった。帰り道こんな会話できるきっかけになるなんて思わんかったけど、その意味でも撮って良かったなあとか思う。万人受けする作品やっぱすごいなあ。

「ねえ、連絡先教えてよ」
「……え」
「松田いろいろ面白そうな漫画とかアニメとか知ってるんだよね?今日撮ってた中の、知らないの多かったから。教えて」
「え、えけど。角名が好きかどうか、分からんで」
「それは見てから判断する」
「そ、か」
「コードでいい?」
「う、うん」
「あ、それよりあれか、クラスのグループから探した方が早いか」
「せやね……」
「アイコンどれ?コスプレ写真?」
「待って流石に設定してへんよ!?」
「冗談だって」

すごい慌てるじゃん、と可笑しそうに笑った角名の顔はいつもより幼く見えた。なんやそんな顔もするんや。またちょっと可愛ええやんとか、思ってしまった。
うーんやっぱり、あのキャラのコスプレ、角名できるんとちゃうかな……。

角名もこっからオタクになったら楽しそうやなあなんて思ったことも、また口には出さんで胸の内に仕舞っとこ。




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