速報褒められた

隣の席の角名にオタバレしてからしばらく経ったけど、驚いたことにこれといって特に変わったことはなかった。もうほんまに恥ずかしかったし、ほんまに終わった思ったんやけど、意外にも角名は口外したりしてないらしい。もしかしたら知らんところで言われてんのかもしれんけど、もしそうやったとしたら多分いつも一緒におるリア友に聞かれると思うし。あんたコスプレしとったんやって?噂んなっとるでwwwって草の生えたメッセージひとつ来てもおかしない。……想像しただけで死にたなるわ……ほんまにしんどい……生き恥晒しや……オタク生きづらい、二次元行かしてくれ。
あの後SNSの本アカを移動させようかかなり迷ったんやけど、結局そのままにしとる。数日鍵かけとったくらい。やってリツイートできんのやもん。引用リツイートもできんし。それってちょっとやっぱりつまらんやんか。レイヤーやもん、みんなにこんなの撮りました言うて楽しかったー!って言いたいやん。ほんで仲良いオタ友と絡みたいやんか。ついでに言うと今までの写真が全部削除されるんはちょっと嫌やった。そりゃもちろん別でデータ持っとるし、多分いつかどこかのタイミングで今の本アカを捨てる日も来るんやないかなとは思うけど、今はなあまだ残しときたいよなあ前のジャンルからずっと仲良いオタ友結構おるねんって天秤にかけたらリアルで見つかったことの方がちょっとだけ浮いた。どんだけやねんて自分でも思うけど。多分いつもの日常生活がなんにも変わらんかったことも追い風になった。だからまあええかなってちょっと思ったんや。

今日も普通の女子高生として登校して、教室行ってクラスメイトに挨拶して。朝のホームルームまで時間あるからリア友と雑談して時間近付いてきたら自分の席に戻る。ほんで最後の方になると朝練終えた治くんと角名が疲れた〜いう顔しつつ教室に来る。いつもと変わらん朝の流れ。本日も平和です。

「おはよ」
「おはよ、お疲れ様やな」
「毎日のことだけど疲れるものは疲れるよね」
「そらそうやな」

ちょっとだけ変わったんは、挨拶してからの雑談がほんの少し増えたこと。オタバレした次の日はもうビビりまくっとったし警戒しとったんやけど角名はそんな私の様子も全く気にならんみたいやった。せやから今こうして安心して学校生活送ってんのやけど。
それにしても朝っぱらから全力でバレーして、そっから授業受けてって、えらいよなあ。すごいなあ、私はそんなん無理やわ。部活に一生懸命で、こういうのを青春いうんやろなあ。角名は絵に書いたような高校生活送っとんのやな。そう思ってちらりと横目で見ればおっきなカバンからパンを取り出しとった。そりゃお腹も空くよな。

「そう言えば、見たよ」
「?」

一限はリーディングやったな、朝から英語ダラダラ読むんはつらいけど午後一番よりはええななんて考えてたら声をかけられた。惣菜パンを片手に話しかけてきた角名のその言葉の意味がわからんくてハテナで返す。

「……なにを?」
「写真」
「……しゃしん」

まさか、と全身の血の気がさあっと引いたのがわかった。カチン、と身体が固まる。そんな私の様子もやっぱり気にならんらしい角名はなんのキャラか分かんないんだけど、とか言いながら携帯を取り出してあのSNSを開き始めた。

「速報?おそくほう?っていうの?一番最近上がってたやつ」

バーン!と効果音でもつきそうなくらい思いっきりまた角名の携帯の画面いっぱいにコスプレの写真が映っとる。いや実際はスッと出されたからそんな大袈裟やないんやけどこっちの心境としてはバーン!どころの騒ぎやないんやが!!

……それ、昨日の街中でコスプレするイベントの、写真……ですね……私が昨日あげたやつ……ですよね……。

またか!!あんた何回私んこと殺せば気が済むねん!?頼むからそっとしといてくれんか!?内緒にして言うたやん!!もしかしてあん時のどうしようかなって、こういうことか!?こう、時差でジワジワ攻めてくるんか!?もう実は裏で色々好き勝手噂しとるんか!?それともこの弱み握ってなんやカツアゲでもするんか!?いやそれはないよな全国常連校のスタメンやもん、そんな不祥事は起こさへんやろな……絶対ないけども、ないけども……!
なんやねん角名倫太郎あんたSか、ジワジワ攻めるタイプなんか、そういうんはなあ……二次創作だけでええねん!!


「すごいよね」


内心荒れに荒れまくって叫び散らかしてたところに予想外の言葉が耳に飛び込んできた。俯いて机を睨みつけてたんを止めておどおどと右側を見ると、角名がまだ画面に映る私のコスプレ写真をじっと見とった。昨日あげた写真は4枚。その全てにスワイプして目を通しとった。

「服とかどうしてるの?」
「へ、え、えっと、買ったりすることもあんのやけど……やっぱ既製品高いし、大体自分で作っとる……」
「え、これも?」
「せやけど……」

昨日やったんはちょっと昔の作品やけど私はいまだに好きな学園モノのやつ。キャラの着てるイベントものの服はそれっぽいもの探したんやけどなかったからしゃあない自作した。もちろん買って済ませられそうなところは買ったりもしたけど8割は自分で何とかした。面倒な作業と思ったらそれまでやけど、私はやっぱりコスプレすんのが好きやからその作業時間もめっちゃくちゃ楽しい。せやから苦にはならん。それに学生は金がないからないもんはつくるしかない。

「ヅラも?」
「ウィッグ言うてくれます?」
「ウィッグ」
「……せやで、こんなん誰かに頼んでやってもらうとかできんやろ。それこそオーダーメイドやんか」
「すごいね」

もう一度聞こえたそれは、今度は素直に入ってきた。すごい。すごい、とは。

「時間も金もかかるよね、これ」
「まあ……」
「本当に好きじゃないと出来ないよね」

……褒め言葉と受け取ってええんやろか。

「……せやな、好きやからやっとる……」
「クオリティ高いと思う」
「!?」
「え、何びっくりしてんの」
「い、や」

そりゃびっくりするやろ、だってあんたオタクでもなんでもないやん。漫画にでも出てきそうな部活少年やん。そんなどこにでも居るような男子高校生でも、私みたいなオタクでもない、コスプレもなんも知らん、スポーツ少年やんか。そんな人が珍装を褒めるて、まぁまぁ異常事態なんやけど。
妹も松田の写真好きみたいだから、とまで聞こえてきて今度は別の意味で俯いてしまう。確かに仲のええオタ友には褒めてもらったことはあるけど、リアルでこんな言葉貰ったことなんてない。いつもは画面上に並ぶ無機質な文字の羅列の裏にあたたかい気持ちが籠ってんのを感じてありがとうとまた画面上で返すだけのことの方が圧倒的に多いのに。こんな、言葉で直接褒められたことも多分ない。私は別に誰かに見せたくてコスプレやっとるわけやないけど、ほんでもこう言われたらやっぱりうれしい。角名兄妹、底辺コスプレイヤーオタクに優しすぎん?
それでもなあ、これは私の趣味の話やからなあ。

「そんなん言ったら、角名だって凄いやんか」

そう呟いてもう一度角名の方を向けば2個目のパンに齧り付いていた。切れ目のところから焼きそばが溢れ出て今にも机に零れそうやけど。

「うちのバレー部って相当強いんやろ?全国大会常連校っていうやんか。そこで2年でスタメンやっとる角名やってすごいやん。むしろそっちのが立派やと思う」

疲れる言いつつもお腹空いた言いつつも、それでもまた放課後には体育館に行ってバレーする。趣味でもなんでもない、ほんまに真剣にそのスポーツに、部活に、毎日費やしてるんはバレーに興味ない私だって分かるわ。伊達に毎日隣におらんし。いや今んとこちょっと会話が増えたくらいで座っとるだけに等しいけど、そんくらいは見てれば分かる。

「角名も、バレー好きやから毎日疲れた言うても頑張れるんやと思うから、ほんでちゃんと試合出てるやん。すごいと思う」

褒められたんがただ素直に嬉しくてその浮かれた気持ちのまま笑ってそう言えば、角名はきょとんとしとった。ちょっとだけ目が大きなって、もごもごさせとったほっぺは少しだけ膨らんでて、その顔がちょっと可愛い思った。

……なんや最近気になっとるキャラに似とるんやない?と思ったのは流石に口には出さんとこ。




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