あなたがほしい


「ちょっとヨレヨレだよなーこれ」
「んー」

 慶吾が摘み上げた國彦のトランクスを見て、たまおは首を傾げる。

「新しいのプレゼントしようかなー。おれ的にはもうちょいセクシーなの穿いてほしいのね」
「んー」

 居間の畳に座り込み、ふたりは洗濯物を畳んでいた。

「でもパンツはなー。穿き慣れてない形のってやっぱり嫌かな? おれは何でも平気だけど」
「んー」
「……聞いてる?」
「んー」

 生返事をするたまおの顔を覗き込むと、たまおは真剣なまなざしを慶吾に向けた。

「あのね」
「なーに?」
「けーごの『みょうじ』はなんていうの」
「苗字? またテレビで何か覚えたの」
「なんていうのー」
「敷島だよ」
「しきしま」
「うん」
「しきしまけーご」
「うん」
「……くにひこは」
「國彦さんは大槻」
「たまおは」
「………」
「たまおは!?」

 何故か必死の形相で詰め寄ってくるたまおに、慶吾は慌ててしまう。

「えーと……」
「………」

「あ、國彦さんに貰おう! 大槻たまおちゃんになればいいよ。ね?」
「おーつきたまお」
「うん、いいと思う」

 何度も口の中で転がしつつ新しい苗字を吟味していたたまおは、何か重大なことに気付いたようにはたと顔を上げた。

「そしたらくにひこは『みょうじ』なくなっちゃうよ」
「大丈夫だよ。國彦さんほどの人になるとね、ちょっと誰かにあげたくらいで無くなったりしないんだから」
「そうなの?」
「そうだよ。だから遠慮しないで貰うといいよ」
「くにひこはすごいんだねぇ」

 ひどく感心した様子でしきりに頷いているたまおの髪を、慶吾はぽんぽんと撫でてやった。

「……おれも欲しいな」
「けーごももらうの?」
「うーん、頼んでみようかな」
「くれるかなー」
「どうだろうね」

 慶吾は獲物を見つけた肉食獣の表情で、唇の端を舐めた。
 その横でたまおは「そしたらおーつきしきしまけーごになるねー、かっこいいねぇ」と、とぼけたことを言っている。

 帰宅後にふたりからの熱烈なプロポーズが待ち受けていることを、國彦はまだ知らない。


おわり。



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テーマ「人外ファンタジー」
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