キンパツのころ
「相変わらず、なんつーか……」
待ち合わせ場所のカフェに現れたあかねを見、慶吾は何とも言えない表情を浮かべた。
「なんですかぁ?」
「なんでそんな気合い入ってんのかな、と」
「あかねー!!」
ふたりのやり取りにはお構いなしに、たまおは椅子から立ち上がると久々に会うあかねにべったりと張り付いた。
「あかねとあそびたい」というたまおの希望で持たれた場だったが、他大学から招いた講師の接待の役を仰せ付かった國彦が来られなくなったため、3人だけでの集まりとなっていた。
「たまおちゃん、元気だった?」
「ん!」
帆布のキャスケットを被った頭を、たまおはぐりぐりとあかねの肩に押し付ける。
「帽子脱げちゃうよ〜」
「あぅ」
優しく引き離され、たまおは悄然として着席した。
不思議な組み合わせの3人に、他の客がちらちらと視線を寄越す。特に「キャバ嬢のご出勤」にしか見えないあかねは、オーガニックを謳ったカフェでは激しく浮いてしまっていた。
「これはねー、鎧なんです」
「ヨロイ?」
「外の世界で戦うための」
トレイを手にした店員がやって来て3人の前にランチのプレートを次々に並べてゆく。たまおは身を乗り出してそれを見ていた。
「……ちょっとわかるよ、それは」
籐製のカトラリーケースからフォークを取り出してたまおに渡してやりながら、慶吾がボソッと言う。
「國彦さんと知り合った頃はおれも武装してた、ガチガチに……それキッシュだよ」
「きっしゅ……」
プレートに載った塊をフォークでつつき、たまおは首を傾げている。
「武装、ですかぁ?」
「金髪にして、全身ブランドもので固めてさ。それでもいつも不安だったけど」
顔にかかる長めの黒髪をさらりと横に流しながら、慶吾は苦笑した。
店の入り口の方で「いらっしゃいませ」と声が上がる。昼時の店内は次第に込み合ってきていた。
「見てみたかったな、金髪のけーごさん」
「自慢じゃないけど可愛かったよ? しょっ中逆ナンされてたし」
「自慢じゃないですか」
「女に好かれても嬉しくねぇの」
「おいしい」
たまおはマイペースにキッシュの感想を述べる。
「確かに可愛かったな」
そのたまおの後ろから、ここにはいないはずの國彦がぬっと顔を出した。
「國彦さん!仕事は?」
「向こうさん、飛行機が飛ばなくて足止め喰らってるんだそうな」
スーツ姿の男を加え、テーブルを囲むのはいよいよ奇妙な一団となった。
「天使みたいだったでしょ?おれ」
「……いや、きれいめのヤンキーって感じだったかな」
あかねが小さく噴き出した。
「くにひこ、キッシュおいしい」
「キッシュ?キッシュって何だっけ」
「これだからおっさんは……」
慶吾は仕返しとばかり大袈裟に溜め息をついてみせる。
寛いだ遣り取りにクスクス笑いながら、あかねはグラデーションカラーを入れた巻き髪を長い爪でそっと後ろへ払いのけ、少し幼く見える顔の輪郭を顕にした。
おわり。
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