とおいみなみの
「またパズルしてんの?」
降ってきた眠そうな声とともに手元のジグソーパズルに影が差し、たまおは顔を上げた。昼過ぎになってようやく起き出してきたらしい慶吾が覗き込んでいる。
「おもしろい?」
「んー」
「いっつも同じやつじゃん。他の買ってあげるよ?」
「いい」
パズルには紫がかった夕焼け空をバックに、椰子の木のシルエットとそこに休む極彩色の大きな鸚鵡たちが描かれている。
沼沢の家から持ってきたもので、たまおはそれを何度でも組んではばらし、繰り返し遊んでいる。
「さいちがくれたんだよ」
「うん」
「おわっても、ばらばらにしたらまたできるんだよ」
「そだね」
「ずーっとできるんだよ」
「うーん」
「すごいよねぇ」
「……そう?」
ぱし、と最後のひとつ、青い鸚鵡の尾羽のピースを嵌め込むと、たまおは満足そうにパズルの表面を撫でた。
「おるすばん、たいくつしないよーにって」
「佐一サンが?」
「さいちが。でもまどからとり、みえるからたいくつじゃなかったよー」
来る日も来る日も、パズルを組み立ててはばらし、窓から外を眺めて沼沢の帰りを待っていたたまおを思い、慶吾は堪らない気持ちになった。
そんな慶吾にはお構いなしに、たまおは無邪気にパズルを指さす。
「こういうとりはどこにいるのかなー」
紫の夕焼けとエメラルドグリーンの海、椰子の木々の間を色とりどりの鸚鵡が舞う。そんな風景が、果たして世界のどこかに実在するものなのかどうか、慶吾にはわからなかった。
「とりあえず、今度ペットショップに行こうか」
「それどこ? とおい?」
「んーん。でも変な色の鳥はいると思うよ」
その週末、郊外の大型ショッピングセンターのペットコーナーには、インコや鸚鵡、仔猫や熱帯魚に歓声を上げるたまおの姿があった。
「そのうち椰子の木のあるとこにも行こうね」
慶吾がにこにこと笑う。
こっそり鳥籠に差し込もうとした手を國彦にさりげなく止められながら、たまおは目を輝かせて頷いた。
おわり。
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