10-4
「男同士」で、「ヘンな意味」で、自分は総を好きなのだと。知っていて。 知っていて、総は揶揄っている。
「可愛い」と言われて喜ぶとでも思っているのだろうか。
力任せにバスタブをこすりながら、奥歯を噛み締めた。 どうにかなりそうだった。 さっきまでは不安と恐怖で、今は羞恥と憤りで。
やがて腕が疲れ、しゃがみ込んでバスタブの縁に置いた手の甲に額を載せた。無意味に流しっぱなしになっている水の音が頭に響く。
「サイテー」
女の子のように呟いてみても、無神経でサイテーだからといって総を嫌いにはなれそうになかった。それがまた悔しい。
いつになく獰猛な感じのした総の笑み。 火を見たから? まさか。
俯いたままゆっくりと首を振ると、髪の毛に付いた煙の臭いが狭いバスルームに拡がった。喉がいがいがする。
感情の振れ幅の大き過ぎる日だった。バスタブにすがるようにして疲れきった身体をどうにか持ち上げ、流れ続ける水を止めた。
―10.予期せぬ事態のための
おわり。
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