10-2


***

「大丈夫か……ってお前、上着は?」

 総に駆け寄ったのはほとんど無意識だったが、その声によって現実に引き戻された。

 外が騒がしいと気付いたのは、帰宅してコートと鞄を自室に置いた時だった。二重サッシの窓を細く開けると「火事だーッ」という怒声が冷たい風とともに飛び込んできた。12月の日はとうに暮れていて真っ暗だったが、外はうっすらと白く煙っているように見える。遅れて煙の匂いが鼻をついた。

 咄嗟に窓を閉めると鍵と財布と携帯電話を掴み、ともかく外へ出た。夢でも見ているようだった。階下へ降りると慌てた様子の管理人が、火元はあっちだと裏の古いアパートを指して教えてくれた。消防には通報済みらしいが、到着はまだのようだ。裏手に回ってみると、2階建てのアパートの1階の部屋の窓から勢いよく炎と煙が噴き上がっていた。夢中で総に電話をかけた。

 ふたつの建物はそう密接しているわけではなかったが、和弥たちの住むマンション側に低い金属製のフェンスが設けられているだけで塀はない。アパートの敷地にある数本の木はフェンスを超えて枝を広げており、乾燥して風の強い冬の仙台の気候では、それを伝って燃え移らないとも言い切れない雰囲気だ。
 踊る炎を遠巻きに見つめたまま、近づくサイレンの音を茫然と聞いていた。

「着ときなよ」

 総がショートコートを脱いで和弥の肩に掛けた。

「いいって」
「よくない。ていうかチャリ激漕ぎしたから熱い、いらない」

 総は本当に髪の生え際に汗を滲ませていた。

 肩に総の着ていたコートの温もりを感じた途端、和弥は自分の身体が冷えきっていたことに気付いた。震えが走り、有難く借りたそれを着込むことにする。

 通勤用にしてはカジュアルなそのコートのファスナーを一番上まで上げた時、野次馬にどよめきが起こる。消火活動によって収まりかけていた火が、何か新たな燃料を得たのか再び勢いを盛り返していた。隣で総がうわ、と呟く。


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