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「何かさ……」
和弥の呟きに、「ん?」と総は首を傾げた。
「ごめんね、こんなことになって。ほんとに迷惑じゃない?」
同じ頃、従兄の総の仙台支社への配属が決まった。和弥の知らないうちに母親同士が相談し、いつの間にか総との同居が決定していたというわけだ。
「迷惑じゃないって。別に幼児の世話しろって言われたわけじゃないんだから。でも、和弥なんておれよりしっかりしてそうなのに、叔母さんも心配性だよね」
総が迷惑がってくれれば、最終的には独り暮らしが許されたかも知れないのに。和弥は内心で頭を抱えた。母親だって、せっかく勝ち取った第一志望の大学への入学を放棄しろとまでは言えなかったはずだ。
溜め息を呑み込み、代わりに曖昧な笑顔を浮かべる。
「まあ、できるだけ迷惑かけないようにがんばるから。どうぞよろしく」 「こちらこそ。叔母さんからはあんな風に頼まれちゃったけど、和弥はもう面倒見なきゃいけないような年でもないんだしさ。ルームシェアだと思って気楽にやろう」
総のその言葉は素直にありがたかった。ルームシェアか。少なくとも実家よりは息苦しくない生活ができるかも知れないと、和弥は少し安堵する。
まだどこかぎこちない会話、新生活への期待と不安。そういったものがぼんやりと漂う部屋の空気を、備え付けのエアコンの温風が怠惰にかき混ぜていた。
―1.円滑な入居のための おわり。
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