9-4
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どこか疲れた様子の総と「おやすみ」の挨拶を交わし、和弥は自室に戻った。廊下の冷気で冷えた足先を温かなベッドに潜り込ませる。
トイレ、というのはほとんど口実で、総の帰ってきた音に目を覚まして、顔を見るためにわざわざ起き出したようなものだった。今朝はお互いバタバタしていて、ろくに顔も見ずに出掛けてしまったから。 自分の行動の女々しさを非難する気持ちと、戸惑っている総に対する申し訳なさ、そして、それでも抑えきれない初恋の高揚感。和弥はきつく目を閉じ、ひんやりとした枕に頬を押し付けた。
着地点の見出せない、ふわふわとした思考を持て余して眠れずにいると、隣の部屋に総が入ってくる気配がした。着替えでもしているのか、がさごそという物音の後、静かになる。
薄い壁越しに互いの様子を探り合うような、何となく落ち着かない夜だった。
―9.穏やかな睡眠のための
おわり。
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