8-4


「いやぁ面白かったな、総」

 そう言って玄関先でからからと笑う登志郎に、悪趣味な、と和弥は小声で悪態をついた。

「未練があるってわけでもないんだろうが。男心は複雑だねぇ」

 登志郎は上機嫌に言ってひとり頷き、総の愛車である洒落たスポーツバイクをひと撫でして去っていった。早朝の冷気が流れ込み、和弥は身体を震わせる。


 居間に戻ると総が床に倒れており、和弥はげんなりとなった。

「総くん、寝るんなら部屋行って。ここ片付けちゃうから」

 溜め息混じりに言って揺さぶると、呻き声とともに総が身を起こす。
 直後、和弥の膝の上に再び倒れ込んだ。

「何で徹夜すると寒いんだろう……」

 不明瞭な口調でそう呟き、和弥の腹に頭を押し付ける。

 とんでもない奴め、人を振り回して楽しいか。
 ときめきより怒りが上回り、和弥は内心で罵倒した。

「なんにもなかったみたいな顔しやがって、香歩のやつ……」

 未練があるってわけでもないんだろうが。登志郎の言葉が甦る。香歩というのは佐竹嬢の下の名前だろう。

「それがお気に召さなかったわけ?」

 和弥の問い掛けにイエスともノーともつかぬ呻き声を上げ、総は寝息を立て始めた。

 とんでもない奴め。もういちど罵り、和弥は側に落ちていたカーディガンを引き寄せて総に掛けてやった。彼が脱ぎ捨てたものらしい。寒いはずである。

 テーブルに背を預けると眠気が押し寄せてきて、膝に総の頭を載せたまま和弥もうとうとし始めた。



―8.円満な交友のための

 おわり。


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