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8.円満な交友のための


 台所に立った和弥は、作り置きのミートソースとピザ用チーズを包んだオムレツ、それから電子レンジで加熱したじゃが芋をニンニクのスライスと一緒にバターでソテーしたものを黙々と制作していた。

「なぜこんなことに……」

「悪いな、和弥くん」

 独り言に返答があったのに驚いて振り向くと、いつの間にか背後に立っていた登志郎が和弥の手元を覗き込んでいた。

「これ運んでもらえますか」

 和弥は大きなオムレツを盛り付けた皿に取り分け用のスプーンを添え、登志郎に手渡した。

 金曜日。大学の授業とアルバイトを無事に終え、週の終わりの解放感とともに和弥が帰宅すると、どういうわけか家が宴会場になっていた。
 聞けば登志郎が突発的に企画した飲み会で、面子は総の大学時代の仲間ということである。登志郎と総の他に男女が2人ずつ。登志郎を除けば全員社会人の筈なのだが、平日の夜にいきなり声を掛けてよくこれだけ集まったものだ。

 和弥が帰宅した時点で、テーブルの上には既にさきいかだのスナック菓子だのといった乾きものしか残っていなかった。総にせがまれて有り合わせのもので作ったのが冒頭の料理というわけである。

「なぁ、佐竹ちゃんいるだろ? ベージュのニットの」
 登志郎が声を潜め、視線で酒宴の席を示す。先程の自己紹介で看護師をしていると言っていた女性だった。

「彼女、大学の頃は総と付き合ってたんだ」
「はぁ」

 和弥は改めて佐竹と呼ばれた女性を見た。
 快活そうで、美人というのではないが愛嬌のある顔立ちをしている。やや厚めのぽってりとした唇は、健康的な色気を感じさせた。
 なるほど総はこういう女性が好きなのか、と、傷付くでもなく無感動に和弥は思う。

「で、その隣、スポーツ刈りの」
「鴻巣さん、でしたっけ」
「そう。あいつが佐竹ちゃんの今の彼氏」
「はぁ。気まずくないんですかね」
「付き合ってたっていっても短い間だし、佐竹ちゃんの方は全然気にしてないみたいだけど……総はなぁ」

 そこで言葉を切り、登志郎は意味深な笑みを浮かべた。

 その時、タイミング良く総が和弥たちの方を振り返る。

「和弥ぁ、食い物まだー?」

 酔いに顔を赤くした総は、アルコールの効果か複雑な思いの表れか、いつもよりはしゃいでいるようだった。

「男って過去を引き摺っちゃう生き物だから」

 和弥にそう耳打ちすると、登志郎はオムレツを運んでいった。


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