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7.果たすべき責任のための
 

 あ、と和弥は心の中で呟いた。
 ダイニングテーブルの上に散乱していた空き箱や包装紙を父が片付けていた。和弥が放置していたものだ。

 10月の三連休、和弥は知人の結婚式のために埼玉の実家へ帰省していた。新婦が母の同僚の娘で、家族ぐるみの付き合いをしていたため和弥も出席することになったのである。
 それぞれの部活の練習やら試合やらで出席できなかった妹たちにせっつかれて引き出物を広げたのはいいが、疲れてそのままソファに突っ伏してしまったのだった(一体何を期待していたのか、中身を見て妹達はひどくがっかりしていた)。

「ごめん父さん。それ、おれが」
「いや。お疲れみたいだな」

 ぐったりとした和弥の姿に父は笑った。
 ただそれだけのこと。しかし、和弥ははっとした。そうした小さな手助けは、彼が幼い頃から現在に至るまでずっと、ごく自然に、周囲の人々によって彼のために行われてきたに違いないのだ。
 和弥が何の気なしに置き忘れたゴミや下げ忘れた食器を片付けてくれたのは誰だったのか。友達と遅くまで遊んでいてさぼってしまった家事当番を誰がやってくれたのか。

 和弥の生活に必要な細々とした沢山の仕事のうち、彼がしなかったことは他の誰かが彼に代わってやっていた。それは当然のことなのに、今初めて思い当たったような気がした。祖母であり、母であり、父なのであろうその慎ましい「誰か」は、1度だって和弥に恩を売ったりはしなかった。


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