6-3
つまり、だ。 総に触れた手を軽く翳し、和弥は思う。
自分が求めるのは女性ではない。
隣から微かな鼾が聞こえ出す。眠る総の目許には薄らと青黒い隈が浮かび、髭も伸びかけている。荒れた唇は僅かに開かれ、間抜けな表情になっていた。
そう、こうしていつだって、その輪郭をなぞるように、目に焼き付けようとするかのように、自分はこの従兄を見つめていたではないか。和弥はこれまで意識することのなかった事実に突き当たる。 和弥の手料理を咀嚼する口許や花火に浮かび上がった横顔、酔っ払って握られた手の熱さ、慌ただしい朝の洗面所で不意にぶつかり合った身体の感触、どれも不気味なほど鮮明に憶えていた。
総がとろとろと眠っては目を覚まし、時に不明瞭な口調で「会社の夢見た」などと呟く間、和弥は衝撃で身動きできなくなっていた。 初めは驚きしかなかったが、やがて動揺や不安が押し寄せる。
「ドウセイアイシャ」と声に出さずに言ってみる。しかし、単なる受け入れ難さだけではない違和感がわだかまった。
――考えても仕方がない。
同居人を真似て手足を投げ出し、オーバーヒートしかけた頭をソファに預ける。総が小さく呻いた。
DVDはいつの間にか終わっていた。窓の外では相変わらず、雨が音もなく降っている。
―6.静かな休日のための
おわり。
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