6-2


 和弥が深海の生物の不思議な生態に夢中になりかけた頃、隣から規則的な寝息が聞こえ始めた。見れば総はソファに頭を預け、手足を投げ出してだらけきった姿勢で眠り込んでいる。

 草臥れた寝顔から目を逸らすと、総の裸足の足が目に入った。筋の浮いた大きな足。それに比べて小さく感じられる爪。和弥の帰省中に仲間と行った海で日焼けした足の甲に、ビーチサンダルの跡がくっきりと残っていた。白い道のようなその跡にそっと手を伸ばしかけ、和弥ははっとする。

 今、自分は何をしていた? 何をしようとした?
 同性の従兄弟の足を舐めるように観察し、揚げ句そこに触れようとする、というのは普通のこととは言い難い。

 深呼吸をしてテレビの画面に視線を戻す。しかし水中の世界はもはや、和弥に心の平安を提供してはくれなかった。
 相手が女性だったら、これは「普通のこと」だろうか? 白くて滑らかな小さな足に、さくら貝のような爪。華奢な足首に、愛らしく突き出した踝。そういったイメージはしかし、和弥にはつくりものめいた不気味な印象しか与えない。女性に特有の優美なからだの曲線や柔らかな質感が和弥の心を愉しませたり欲望を掻き立てたりしたことはそれまでに1度もなかった。

「あ」

和弥が呟いたのと、

「ひ」

息を呑むような音を立てて総が目を覚ましたのは、同時だった。

 単に淡白な質なのだと、思っていた。和弥にも性の兆しがなかったわけではないが、彼の心を捉えるイメージが明確に女性の形を取ることはなかった。

「うわ、高いとこから落ちる夢見た……」

 隣で茫然としている和弥にお構いなしに、総は胸を押さえて呼吸を整えていた。

「これでしょ」

 どうにか冷静を装って、和弥は総の膝を軽く叩く。ゆるく立てていた片膝が何かの拍子で崩れ、その衝撃が落ちるイメージとなって表れたのだろう。

「手、冷たい。クーラー効きすぎ?」

総はぼんやりと呟き、また目を閉じた。


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