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「叔母さんはショックがでかい分、完全に安心できるようになるまでには時間が掛かると思うよ。でも」 早くも新たな缶を開けながら話す総の表情は、闇に紛れて既によく分からない。 「ずっとこのままってわけじゃないはずだ。和弥がここで1日1日、元気に暮らして、時々『今日も元気だよ』って教えてあげるだろ? そうしたら叔母さんだってそのうち、こいつは放っといても大丈夫だって思えるようになるって」 「地道だね」 「地道だとも」 「結局それしかないか」 「ないね。でも、おれまで保護者モードじゃ和弥がかわいそうだから」 もう酔っ払ったというわけでもなかろうに、総は飲みかけの缶を陽気に掲げた。 「おれだけは無条件に信じてやろう。和弥が『やばい、飛び降りそう』って言ってくるまでは心配してやらない」 「言わないって。……かわいそう? おれ」 「カワイソウカワイソウ。叔母さんとか、和弥の家族もかわいそうだけど、お前もかわいそうだよ。負けず劣らず」 「かわいそう」を連発する割に、声には憐れみが全く込もっていない。それに和弥は救われる思いだった。
「そろそろだよ」 少し離れたところに陣取っていた夫婦が腕時計を見て言い合うのが聞こえた。 つられて和弥と総も空に目を遣った瞬間、総が示したのよりも少し東の空に一発目の大きな花火が開く。それに重なるように、幾つもの小さな花火が次々と打ち上げられた。会場の西公園ほどではないだろうが、6階建てのこのマンションの屋上からでも十分な迫力だった。 轟きが心地よく心臓に響く。その姿を誇るように中空で力強く開いた花火は、次の瞬間には煙だけを残してぱらぱらと散ってゆく。和弥が目を閉じると、しかし、そのまなうらにはくっきりと大輪の花が咲き誇っていた。
「西公園には浴衣のカップルがうじゃうじゃいてうんざりするだろうけど」 焼き鳥を齧りながら総がやや不明瞭な口調で言う。 「こうやって見るといいもんだよね、花火って」 まさに高みの見物。そう言って笑う従兄の顔が次々に開く花火で照らされるのを、眩しい思いで和弥は見つめた。
―5.対等な関係のための
おわり。
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