5-2


 5限目終了のチャイムが鳴っている。筆箱を鞄にしまい、和弥は小さく伸びをした。

「どうだった?」
 友人が近づいてきて今の試験の出来を問う。
「何とか埋めた感じ。落としはしないんじゃないかなぁ」
 曖昧な答えを返しながら、今が試験期間でよかったかも知れないな、と和弥は思う。目の前にやるべきことが山積みになっている間は、あの日から続いている総との間の気まずさに悩まなくてもよかったからだ。

 これで試験も残すところあと1科目となった。翌日に控えた最後の試験は簡単に単位をくれるいわゆる「ホトケ」として有名な老教授の担当科目であり、和弥の試験期間は実質的に終わったと言っていい。しかし、開放感とは程遠かった。疲労だけが重く残っている。
 試験の時間中は切っていた携帯電話の電源を入れると、総からメールが入っていた。外で一緒に夕食を食べないかという誘いで、近所の定食屋が指定されている。
 総と真っ向から話すことは避けたかったが、ずっとこのままというわけにはゆかないことも分かっている。「了解」とだけ書いたメールを返信し、重い身体を無理矢理椅子から引き剥がした。



「試験はまだ残ってるの?」

定食屋のカウンター席で、瓶から手酌でビールを注ぎながら総が聞く。わざとらしいほど屈託のない態度だった。

「大体終わった。あとレポートがひとつふたつ」
 こちらも敢えて拘りなさそうに、和弥は返した。

「実家、帰って来いって言われてるんでしょ? いつ帰るの」
「来週の火曜かな」
「ふうん」

 総の言う通り、7月に入った辺りから既に、実家の母と祖母から交互にいつ帰って来るのかと言われ続けていた。それで、休みに入ったら早々に帰省することにしたのだ。

「帰るの、もう1日だけ待たない?」
 何事か思案していた総が突然言う。
「何で」
「何でも。だめ?」
「だめじゃないけどさ。1日くらいなら母さんも納得するだろうし。でも何で」
「いいから。いいことあるよ」
 焼き魚の身をほぐすのに没頭するふりをして、それきり総は黙ってしまった。


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