恋のレッスン☆ABO



「もう、これだからB型のオトコは!」

 女子のひとりがそう言い放ち、周りがどっと笑った。昼休みの教室。言われた男子も笑いながら頭を掻いている。

 その様子を頬杖を突いて眺めた。B型だから何だってんだ。

「倉田は絶対A型でしょ」
「当たりー」
「ぽい!それっぽい!」

 もはや宗教だ。血液型占いが当たってるんじゃなくて、お前らが洗脳されてんじゃねぇの。
 いや、血液型別性格類型は救いも心の平安も与えちゃくれないから、宗教でもないか。しかし、暇潰しの娯楽にしちゃ行き過ぎてる。知ってるか? 今はブラッドタイプ・ハラスメントって言葉まであるんだぞ。

 大体たった4つの単純なパターンに自分を当て嵌めて喜ぶなんて、お前ら人間の尊厳はどうした。自由からの逃走ってやつか? なんつって。

「上谷は?」

「おれ?」
 いきなり話を振られてぎょっとする。

「……おれもAだよ」

「だよねー、絶対そうだと思ったぁ」
「超わかりやすいよなー」

 ザマミロ。実はO型だ。
 ここに反証が成立した。



 そんなことがあった翌日の休み時間、昨日の会話にも加わっていたクラスメイトの高野が深刻な表情で寄ってきた。

「上谷、あのさ」
「なに」
「上谷は6月21日生まれの双子座で、A型なんだよね」
「そうだけど」
 実はA型ではないが、昨日そういうことになった。

「……」
「それが?」
「あのさ」
「うん」
「……これ」

 高野がおずおずと、手にしていた本のあるページをこちらへ開いて見せた。

[星座・血液型別相性度早見表]

 縦と横にそれぞれ「うお座・A型」「乙女座・B型」「水瓶座・O型」……というように十二星座と血液型が羅列されており、表は数値で埋め尽くされている。相性度ってなんだよ。

ひとつの数値が蛍光ペンでマークされていた。

「-11」

 辿ってゆくと、縦軸は「双子座・A型」。横軸は「天秤座・O型」……こっちは高野か?

「マイナス11ね。……これがおれとお前の相性ってわけ?」
「そうなんだよ……」
「で?」
「でって!」

 高野は悲壮な表情で口をぱくぱくさせた。
 「でって!」と言われても。強いて言うなら、不気味だから勝手に相性占いなんかするのはやめてくれ。そもそもこいつに誕生日なんて教えた覚えがない。

「ここも見てくれ」

[-15〜5]
相性は最低レベル。一緒にいると双方の悪い部分ばかりが出てしまって、負の相乗効果に。お互いに嫌な思いをしないためにも、深入りは避けて。


 これを書いた奴は、一体何の権利があって他人の人間関係まで指図するんだ。それにしても「負の相乗効果」ってどれだけ相性が悪いんだろう。ちょっと笑える。

「どうしよう、上谷」
「忠告に従ってお互い深入りは避けよう。ほら、その本持ってあっちへ行きたまえ」
 しっしと手を振る。付き合いきれるか。

「そんな……」

 立ち尽くす高野の手元の本を何気なく覗く。視線をスライドさせて本当の血液型である「双子座・O型」を見ると、


「95」


「……」
 
 絶対教えてやるものか。一生振り回されてろバーカ。


Fin.


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