うし料理1

A Sensible Way


You are sixteen going on
seventeen
Baby,it's time to think...

休日の午後。史生が床をワイプしながら歌うのは、大のお気に入りのミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』の1曲だ。
妙なステップまで踏んでいる。

掃除しながら口ずさむ、という域を完全に超えた熱唱ぶり。いつものことなのだが、いつものように受け流したり、あるいはハモってやったりする気分にはなれない。史生がご機嫌で歌えば歌うほど、気分は重くなった。

史生に罪はない。全くない。

ここのところ、仕事上の小さなミスや人間関係の些細な行き違いといったことが重なっていた。ひとつひとつは取るに足らないようなことなのだが、こうも続くと気分も落ち込む。何か悪い流れに巻き込まれてしまったような感じだ。


...going on seventeen
I know that I'm naive...

うるさい!
史生が裏声でリーズルのパートを歌い出すに至り、思わず怒鳴りつけそうになったのをすんでのところで飲み込む。彼がいつもの彼であるという、それだけのことに腹を立てるなんてどうかしている。

代わりにキーケースと財布を取り上げ、「出掛ける」とだけ声をかけて部屋を出る。
史生は不思議そうにこちらを見るとひらひらと手を振り、innocent as a rose...と裏声で再開した。

何がバラみたいに純真よ、だ。人の気も知らないで。

何ひとつ言っていないのだから知るはずもない。
ため息をついてエレベーターに乗り込んだ。



→次項史生サイド


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