サバンナ
the Laws of Nature
「ムツキ,suppose we were...(もしもだよ、ぼくたちが、)」
史生が吐息混じりの掠れた声で囁く。
「Suppose what?(なに?)」
問い返しながら首筋に軽く歯を立て、舌を這わすと、ちいさく身体をふるわせてきつく抱きついてくる。
「(もし、ぼくたちが野生の動物だったら)」
背中にしがみついていた手が、今度はいたわるように腰から背中を優しく擦る。心地好さに目を閉じた。
「(こんなふうに、はだかで無防備で、ゆっくり、深く、セックスなんて…)」
言葉の合間に、溜め息ともうめきともつかない声が漏れる。日本語に当てはめられない音だ。
「And you think we're against nature.(だから、これはオカシイって?)」
「きもちいい、ムツキ……」
史生は両脚までこちらの腰に巻きつけて、全身でより深い快楽をねだる。
確かに自然界なら、もっと手っ取り早く済まさなければ、かかる時間に比例して交尾の成功率は下がるだろう。 無用なキス。無用な愛撫。無用な言葉。なにより男同士だ。
「(あいしてる、ムツキ)」
史生が口走る。loveya、と耳許で無駄口を囁き返して(しかし照れるのだ、純日本人の普通の感覚として)、人間らしい愛の営みを続行することにする。どうせなら、じっくり時間をかけて。
その晩、テレビでしか見たことないアフリカの草原で、裸で身を寄せあって眠る夢を見た。おおきな樹の根もとで、土と緑の濃い匂いに包まれ、史生とひとかたまりになったまま安心しきって眠る夢だった。
おわり。
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