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「それであの子を捜していた?」
「そうです。最期まで傍らにいたはずのポチに、何かを託したかもしれない、と。人を雇って大学周辺から捜させました」

 ポチ――たまおには、おそらく戸籍も住民票もない。あれこれ詮索せず、報酬さえあれば動くような連中に依頼したのだろう。

「なぜ大学にいると……」
「……もうすぐ着きます」

 橋を渡り切り右に折れると、車は山沿いに回り込むように進んだ。集落の跡らしきものが見えてくる。

「ここから大学の前の通りまで、距離はありますがほとんど一本道です。まず移動したとしたら大学ではないかと」

 都築は1軒の小さな木造の家の前に車を停めた。

 警察はとうに引き上げたのだろう、家の周囲に人影はない。立ち入り禁止のロープを踏み越えて玄関扉へ近づく都築に國彦と慶吾も続いた。

 改装されているのか、古い外観に反して室内は小綺麗な洋風の造りになっている。薄暗い廊下に死臭が籠っているような気がして、慶吾は顔を顰めた。
 廊下の突き当たりは広い空間になっていた。中央の欄間の跡から、もとは2部屋に分かれていたところをひと続きの洋室にしたのだと察せられる。右手にキッチンと2人がけのダイニングテーブルがあり、反対側の隅にはシングルベッドが置かれていた。

 そのベッドの足元に、たまおがうずくまっている。

「たまおちゃん!」

 駆け寄ろうとした慶吾だが、戸口のすぐ脇に控えていた男に阻まれる。都築に雇われてたまおを捜していた男のひとりだ。
 國彦と慶吾を伴って戻ってきた都築に、たまおは目を丸くする。蛍光灯の白々とした光に照らされた彼の顔は蒼褪めていた。手には、裂かれた腹から綿を溢れさせるこぐまさんがあった。手紙やメモリーチップの類が隠されていることを疑われたのだろう。

「たまお、迎えにきたよ。……これを、この人に渡す。いいね?」

 國彦が封筒を取り出して見せる。たまおはびくりと反応した。

「わたさないで、つづきにわたさないで」

 激しく首を振り、掠れた声で訴える。

「……どうして? よかったらこの手紙のこと、話してくれないか」

 努めて穏やかに問いかけた國彦の顔を見つめ、途方に暮れたように、たまおは震える息を吐いた。

(2010/06/21)


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