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 慶吾が身構え、入ってきた男を睨み付けた。

「こいつだよ、たまおちゃんに声掛けてきたの」

「では、あなたが都築さん?」
「そうです。……大槻先生ですね」

 明らかに年上の都築から「先生」と呼ばれ、國彦は落ち着かない気分になる。

「こちらにはどのようなご用件で?」
「彼……あなたたちの言うところの『たまお』ですか、彼は今、私のところにいます」

 あかねが息を呑んだ。

「たまおちゃんをどうするつもりだよ」

 慶吾が噛み付く。

「彼をどうこうするつもりはありません。強引な手を使ったことは謝ります。きちんと説明しますから、どうか分かってください」

 そう言うと、彼は上着の懐から一通の茶封筒を取り出した。慶吾が持ってきたのと同じ型のものである。

「これがあの子のリュックの中にありました。しかし中身は……」

 茶封筒から出てきたのは、スーパーマーケットのチラシであった。カラフルな写真と共に「特価」「特別大奉仕」などの文字が躍っている。もうちょっと他になかったのか慶吾、と、國彦は内心で呟いた。

「あの子は本当に何も知らないようでした。中身を見て驚いた様子だったから」
「何が入っているはずだったんです?」
「私の考えが間違っていなければ、沼沢さんはあの子に――ポチに、手紙を託したのではないか、と……」

「ポチ?」

 3人の声が重なった。

「沼沢さんのところにいた頃、彼はそんな風に呼ばれていました。ここ最近は、奥さんも息子さんも私も家には近づけず、彼だけを側に置いていたから……」

「ちょっと待ってください。たまおちゃん、前は沼沢センセのとこにいたんですかぁ?」
「あなたは藤倉さんですね」
「え……」
「人を使って少しだけ、調べました。敷島慶吾さん、あなたのことも。失礼を許してください」

 学内でたまおのことを聞き回っていた男。あかねがその場は嘘でかわしたが、國彦の家の周辺で都築がたまおと慶吾に遭遇したところから、結局はたまおの居所が知れてしまったのだろう。

「沼沢さんのこと、何も聞いていないんですか」
「……過去については何も」

 國彦は硬い声を出した。
 たまおが國彦たちの前に現れた時期は、沼沢が亡くなった時期と重なっている。沼沢の死と前後し、彼のメッセージを携えて、たまおはやってきたのだ。

「そんな手紙があったとして、どうなさるつもりなんです」
「それは勿論……」

「隠蔽するんだろ」

 慶吾の言葉に、都築が目を見開く。國彦は頭を抱えたくなった。これでは手紙を知っていますと宣言しているようなものだ。


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*慶吾は頭悪いわけじゃないけどたまにちょっとおバカ。

(2010/06/07)


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