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『あのね、実は……』

 電話口で慶吾が言いにくそうに口ごもる。

『おれ、たまおちゃんのリュック、開けたの』
「……は?」

 何を言い出すんだと國彦は呆気に取られた。

『手紙が入ってて……や、中は見てないんだけど』
「手紙?」
『茶色い封筒。で、さ……』


『それ今、手元にあるんだよね』



「大学なんて初めて来た」

 慶吾はきょろきょろと物珍しそうに研究室内を見回した。
 電話では埒があかないと、「手紙」の現物を持って研究室に来させることにしたのだ。
 時間を置いて幾分冷静になったらしい慶吾は、あかねに目を留めると訝しそうにした。

「……なんで大学にキャバ嬢がいるわけ」
「キャバ嬢じゃない。彼女が藤倉さんだ」

 あかねは怒るでもなく、「どーもぉ」と慶吾に軽く会釈した。

「あんたがあかね……」
「けーごさんですね。お噂はかねがね」
「何だよ噂って。國彦さん、このケバいねーちゃんに何話したわけ!? 超むかつくんだけど!」
「ヤキモチですかぁ」
「うるせぇ! その喋り方腹立つ」

 慶吾はあかねに対して敵意を剥き出しにする。

「遊んでる場合か」

 國彦に一刀両断にされ、慶吾は我に返る。

「そうだ、たまおちゃんが、手紙が……」
「落ち着いて。掛けなさい」

 ソファへ促され、慶吾は大人しく腰掛ける。ポケットから長形4号サイズの茶封筒を取り出して國彦に見せた。

 表にも裏にも何も書かれておらず、糊できちんと封をされている。厚みと感触から、折り畳んだ数枚の紙が入っていることが察せられた。

「これをたまおのリュックから?」
「そう。昨日こっそり」
「どうしてそんなことを」
「だって……物騒だと思って。たぶんこれのせいで、たまおちゃん狙われてるんじゃないかって思ったから。ただリュックに入れただけで置いてたり持ち歩いたりしちゃ、さ」

 慶吾は開き直ったように言う。

「たまおは気付かなかったのか……?」
「すり替えたんだ。同じような封筒に適当な紙入れて、封もして」
「つまりたまおは知らずに偽の封筒を持っていったと」
「う……」

 まさかたまおが自ら、それを持って出て行くとまでは慶吾にも予測できなかったのだろう。

「でぇ、結局何なんでしょうね、それ」

 一見何の変哲もない茶封筒を、3人は無言で見下ろした。

「……開けてみるか」
「いいんですかぁ?」
「仕方あるまい。たまおの行き先の手がかりになるかも知れないし、たまおも見せてくれると言っていた」

 以前、たまおは國彦に、リュックの中身を見せると約束している。
 「いいのかなぁ」などと言いつつ、言葉とは裏腹にあかねは素早くペーパーナイフを差し出した。

「開けるぞ」

 國彦が誰にともなく掛け声をかけた。

(2010/06/05)


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