-番外編2-
「けーごおはよ」
尻尾がぱたぱたと揺れる。
「おはよ。くま、ありがとね」
慶吾からおおくまさんとこぐまさんを抱き取ると、たまおはそれぞれの鼻の頭に軽く唇をふれた。ひとりで眠り続ける慶吾が寂しくないように、ぬいぐるみを布団に残してきたのである。
「たまおちゃん、おれにも」
目を閉じて顔を突き出してみせる慶吾の下唇に、たまおは軽く噛みついた。 擽り合いのようなキスはたまおを嬉しくさせる。暫くじゃれてから、ふたりは顔を離した。
「お昼にしようか。うどんでいい?」 「ん」
台所へ立つ慶吾を横目に、たまおはぬいぐるみを抱えてもとの日向へ座り込んだ。 おおくまさんを膝に座らせ、手に持ったこぐまさんにその身体をよじ登らせながら、たまおはあかねのことを考える。
あかねの手にかかるとぬいぐるみが生きているように動き出す。あかねからは、今まで嗅いだことのないようないい匂いがする。あかねの爪やまぶたはきらきらと彩られていて、あかねの声は國彦とも慶吾とも違って甘い。あわよくばあかねとも、唇でするお気に入りの挨拶をしてみたかった。 どきどきと胸が弾む。ぬいぐるみを抱く腕に力を込め、たまおは日だまりへころりと身を投げ出した。
「ご飯だよ〜」
慶吾が大小ふたつの丼を運んできた。鰹出汁のいい香りに、たまおは素早く着席する。「いただきます」の挨拶をしてから、目の前の小さな丼にフォークを突っ込んだ。 たまおは極端に少食だった。無邪気な仕種や舌たらずな口調はたまおを幼く見せたが、その体格は男性としては小柄、という程度である。國彦と慶吾は初め、何とかして普通の量の食事を摂らせようと奮闘したが、やがてそれがたまおにとっての適量なのだと諦めるようになった。
「今日おれ、バイト休みなんだよ」
慶吾の言葉に、丼に顔を伏せるようにしてうどんを食べていたたまおが顔を上げる。
「だから3人で一緒に寝られるね」
たまおはうどんで頬を膨らませたまま何度もまばたきをした。尻尾がぱたぱたと揺れる。精一杯の喜びの表現である。
遅めの昼食を終えると、早くも冬の日は西へ僅かに傾きつつあった。
「ただいま」
國彦の声に、日課の長い午睡から目覚めたふたりは我先にと玄関へ駆けてゆく。辺りはすっかり闇に包まれていた。
「國彦さんお帰り」 「おかえり」
ふたりを代る代る撫でてやりながら國彦は穏やかな笑みを浮かべる。
「今日は何してたんだ?」
「ご飯」 「おふろ」 「散歩」 「ひるね」
國彦の問いかけに、ふたりは仲良く交互に答えた。
「……そりゃ盛り沢山だな」
國彦の皮肉に、たまおは何故か得意気な顔になった。
つづく。
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*どうでもいい話を長々と引っ張っちゃってすみません(汗) 漸く時間が出来たので、明日からはもとのペースに戻れると思います。
(2010/05/26)
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